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オーバーツーリズムは何が問題?位置情報は対策のひとつになる

国内外の旅行を楽しむ人が増え始め、世界中で「オーバーツーリズム」が問題になっています。オーバーツーリズムとは、観光客が増えすぎて地域住民や環境に悪影響を与え、ひいては観光客自身の満足度をも低下させることを指します。多くの観光地で、観光業は地域を支える主要産業になっているため、住民の生活を守りつつも、地元企業の利益や観光客のニーズを満たして行かなければなりません。そこで、位置情報(人流データ)を利用して観光客を分散させるという対策が有効になります。

ここでは、オーバーツーリズムの概要とその対策について紹介します。

オーバーツーリズムとは

オーバーツーリズム(Overtourism)とは、観光客が過剰に増加し、観光地の地域住民の生活や自然環境に悪影響を与え、結果として観光客の満足度まで低下させてしまうことです。スペインのバルセロナ、イタリアのベネチアなど、世界各地の観光地でもオーバーツーリズムは問題となっています。オーバーツーリズムを、観光庁では次のように言及しています。

「特定の観光地において、訪問客の著しい増加等が、市民生活や自然環境、景観等に対する負の影響を受忍できない程度にもたらしたり、旅行者にとっても満足度を大幅に低下させたりするような観光の状況」

観光白書 平成30年版|観光庁

ただし、オーバーツーリズムの明確な基準はありません。オーバーツーリズムと呼ばれるかどうかは、地域住民や旅行客がどの程度悪影響を認識しているかによります。

エリアの混雑状況の可視化については、「混雑状況を可視化するとどんなメリットがある?仕組みと利用例を交えて解説」をご覧ください。

オーバーツーリズムの要因

オーバーツーリズムが増えたことには、次のような要因があります。

  • LCC(Low Cost Carrier:格安航空会社)の普及
    LCCにより航空運賃が安くなり、多くの人が旅をしやすくなりました。
  • 民泊サービスの登場
    民泊なら一般の民家や別荘などに安価に宿泊することができ、現地ならではの生活を楽しめます。そのため旅行が手ごろになり、これまで観光客がいなかった一般住宅地にも観光客が増えました。
  • 世界的な旅行者の増加
    インドネシア、インド、タイ、マレーシアなど、アジアの新興国を中心として中間所得層が増加し、旅行を楽しむ人が増えています。
  • SNSの影響
    近年普及したSNSにより、世界中に情報が拡散されやすくなりました。そのため、脚光を浴びたスポットが突然観光地化して観光客が集中するようになっています。このようなスポットでは観光客の受け入れ準備が整っていないため、オーバーツーリズムの問題が発生しています。

オーバーツーリズムの問題点

オーバーツーリズムは何が問題で、地域にどのような悪影響があるのでしょうか。

なぜいまオーバーツーリズムが問題になっているのか

最近では、観光客の増加によるメリットよりも、オーバーツーリズムを問題視するところが増えてきています。特に最近の観光には、次のような傾向があります。

  • インバウンドの影響により旅行者が増加し、人の移動が活発化している
  • 景観や名所旧跡などではなく、地域文化や地域の日常生活そのものが観光資源となっている

このような観光客の行動の変化によって観光客と地域住民との接触が増え、摩擦が生じやすくなっています。それが地域住民の暮らしや経済に大きく影響しているのです。

オーバーツーリズムの具体的な問題点

オーバーツーリズムにより、次のような問題が発生しています。

  • 住環境への被害、近隣住民とのトラブル
    訪日外国人観光客のマナー問題(集団で行動、大声、ごみ投棄、違法民泊の増加)や言葉が通じないなどの要因により、近隣住民とのトラブルや犯罪発生数の増加と治安の悪化、緊急時の安全確保の困難化などの問題が発生。また生活道路の渋滞や事故、交通機関の混雑・遅延などで生活環境が悪化した住民とのトラブルも増えています。
  • 観光資源の劣化
    自然破壊や景観の悪化、文化財の損傷などもオーバーツーリズムを起源とする問題です。
  • 経済的な損失
    混雑や文化財の損傷による観光地の魅力度低下、観光客の満足度低下、観光客対応への人員不足などは地元の経済的損失につながります。
  • 地方自治体を圧迫
    観光客向け施設の整備には、想定外の経費がかかります。ごみ処理費用の増加や安全対策、道路の整備などは地方の自治体や地域社会を圧迫します。

オーバーツーリズムは観光地の経済にどのような影響を与えるのか

オーバーツーリズムは、地域の経済に次のような悪影響を与えると言われています。

  1. 地価の高騰
    観光業以外では、地価が高騰して地域住民が商売を継続できなくなったり、郊外への転居を強いられたりする可能性があります。
  2. 観光地の魅力度低下
    地域住民の暮らしが変化することで、観光地の魅力度が低下する可能性があります。これは観光業界の収益悪化につながります。
  3. 地域経済の悪化
    その地域が観光産業への依存度が高い場合、上記のような影響は地域全体の経済悪化につながってしまいます。

事例:日本国内でのオーバーツーリズムとその対策

日本でも近年は訪日外国人旅行者が急増しているため、国もオーバーツーリズムへの対策を行っています。

観光庁が推進する「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」

国土交通省・観光庁は、2023年10月に「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を発表。オーバーツーリズムの問題について、以下のように取り組むと宣言しています。以下のような対策を通じ、国としてもオーバーツーリズムの解消を目指しているのです。

  • 受け入れ環境の整備/増強(観光地の受け入れ環境や輸送ルートなど)
    ・バスやタクシーが不足している京都では、観光客が集中する路線バスから鉄道への分散・乗り換えを促進・支援
    ・チケット購入や運賃支払いのキャッシュレス・多言語化を支援(全国10地域→20地域以上)
    ・関西エリアでMaaSや配車アプリ等の導入・サービス拡充に対する支援の実施
    ・観光客向けの乗合タクシー導入、混雑乗り場におけるタクシーポーターの配置などの混雑緩和策実施
    ・国立公園を中心に入域料を導入し、受け入れ環境整備に活用
  • 需要の適切な管理
    ・沖縄や西表島などで、エコツーリズム推進法や自然公園法に基づく入域規制やガイド同伴の義務化
    ・観光施設・駐車場予約システムやパーク&ライド駐車場整備等への支援
    ・観光スポットへの急行バス導入促進
  • 需要の分散・平準化
    ・観光スポットや周辺エリアの混雑状況の可視化・リアルタイム配信の導入支援
    ・混雑状況を考慮し、空いている観光ルート等の提案で観光客を誘導
  • マナー違反行為の防止・抑制
    ・統一ピクトグラムを策定し、世界的な旅行ガイド本への掲載等を通じた周知徹底
    ・看板・デジタルサイネージ等の設置支援、多言語での情報提供
    ・私有地や文化財等への防犯カメラ等の設置支援
  • 地方部への誘客の推進
    ・11モデル地域における高付加価値なインバウンド観光地づくりの実現
    ・全国各地で特別な体験や期間限定の取り組み等を自然、文化、食、スポーツ等のさまざまな分野で創出し、全世界へ発信
  • 地域住民と協働した観光振興
    ・住民を含めた地域の関係者による協議に基づく計画策定・取り組み実施への包括的な支援(全国約20地域)
    ・各地域における課題解決に関わる相談窓口を観光庁に設置。各省庁が連携し支援する体制の整備

以下で、問題が顕在化するオーバーツーリズムに対し、日本国内で対策した事例についても紹介しておきます。

京都市

京都は日本を代表する観光地で、世界中から多くの観光客が訪れる都市です。そのため、次のような問題が発生しています。

  • 路線バスが混雑して地域住民が利用できない
  • ごみのポイ捨て、民泊の増加による騒音などの環境公害が増えた
  • 急激に地価が高騰している
  • 観光客が私道に侵入する

そこで、次のような対策が行われています。

  • AIによる混雑予測情報
    京都観光情報サイトで混雑予測情報を発信し、混雑回避を図る。
    混雑回避に役立つ京都観光快適度マップ|【京都市公式】京都観光Navi
  • 観光情報を発信
    オフシーズンである、知名度が低いなどの理由で比較的すいている観光スポットの魅力を発信して集客し、観光客の分散につなげる。
  • 宿泊税を導入
    ホテルや旅館だけでなく、簡易宿所・民泊などからも宿泊税を徴収してインフラを整備する。
  • 交通機関の分散
    観光客が集中する路線バスから鉄道への分散・乗り換えを促進する。
  • 観光客の移動効率化
    混雑する乗り場にはタクシーポーターを配置し、駅にも総合おもてなしコンシェルジュを配置する。また、駅と観光地を結ぶ臨時バスを増便する。
  • マナーの周知
    地下鉄京都駅や烏丸御池駅に電子看板を設置し、英語や中国語などで観光のマナーやルール厳守を呼びかける。また、外国人観光客向けのリーフレット「AKIMAHEN」を配布し、マナーの啓発を行う。
  • 民泊に関する条例を制定
    京都市旅館業法に基づく衛生に必要な措置及び構造設備の基準等に関する条例」を制定し、既存の施設を含めて民泊に全国より厳しい基準を適用する。

関西エリアの「手ぶら観光」

関西では、自治体・経済団体・観光団体等が参画する関西観光本部や近畿運輸局が中心となって「手ぶら観光」を推奨しています。宅配業者と連携して荷物を空港や宿泊施設に届けることで、身軽な観光が可能になるというものです。観光客が大きなスーツケースを持ち歩かなくなることで、次のような効果があります。

  • 混雑が緩和する
  • 観光客が身軽になり、ストレスが軽減する
  • 行動範囲が広がり、遠方の観光スポットも利用できる

この手ぶら観光は、東京でもヤマト運輸や佐川急便などがサービスを展開しています。

鎌倉市

鎌倉市は観光スポットが比較的狭いエリアに集中しているため、混雑が大きな問題となっています。特に、日常生活に使う交通機関が観光スポットにもなっているので、地域住民や通勤・通学利用者の生活に大きな影響があるのです。そこで鎌倉市では、次のような対策で交通機関の混雑を緩和しています。

  • 交通機関での住民優先(期間限定で実施)
    「江ノ電沿線住民等証明書」を掲示すれば、優先的に駅構内に入場できる。
  • 観光マイカー課金(検討中)
    鎌倉市中心地へマイカーで訪れる観光客を対象に、休日の渋滞時間帯に限って1台につき約1,000円を課金することを検討している。
  • パーク&ライド(パーク&レールライド)(機関限定で実施)
    鎌倉地域の周辺にある駐車場まで車で移動し、そこから公共交通機関で目的地まで移動する方法で、2022年2月1日から12月28日までの期間限定で実証実験を実施しました。観光客はパーク&ライドを利用すると、協賛している店舗や観光スポットで割引サービスを受けられる特典がありました。

事例:海外でのオーバーツーリズムとその対策

次に、海外ではどのような対策が行われているかも紹介します。世界でもオーバーツーリズムは大きな問題です。

イタリア

景観を損なうことやラグーンへの悪影響、波の発生による地盤沈下促進が懸念されていたため、クルーズ船の中心地航行を禁止。また日帰り客を対象に、5ユーロの入域料を徴収することを計画しています(ベネチアを対象に、2024年春と夏の週末に試験的に導入される予定)。

スペイン

住人による観光反対デモもあったため、政府は2017年に「2020年に向けた観光都市計画」を発表し、以下のような対策を実施しています。

  • 新たな商業施設等の開設を禁止
  • 観光客向けの新規ホテルの建設を禁止
  • B&Bへの規制強化と貸し出し可能な部屋数を制限

オーバーツーリズムの解消は持続可能な観光地を目指すために必要

オーバーツーリズムの解消は、観光地を維持し、持続可能な資源とするために必要なことです。そのためには以下の2点を施策によって満たすことが大切です。

  • 地域住民や環境問題に配慮した対策であること
  • 観光客の需要に応えつつ地域経済(雇用も含め)にも貢献すること

ドイツ観光研究所の報告書では、オーバーツーリズムの対策は宿泊数や訪問者数などの経済的な成果のみでは不十分で、環境や社会的な要素を配慮し持続可能なものとなることではじめて成功と言える、と結論づけています。観光客の多様なニーズに応えながらも、地域の経済・社会・環境に配慮した観光地を目指すことがオーバーツーリズム対策として求められているのです。

オーバーツーリズムへの対策

オーバーツーリズムが起こる大きな要因は、「集中」と「混雑」です。オーバーツーリズムの対策を立てる場合の有効な分析方法としては、「位置情報データの活用」があります。

位置情報データの活用で観光客の集中を防ぐ

観光客の位置情報を取得して人流を可視化することで、集中を防ぎ、混雑を防止することができます。

例えば、スマートフォンの位置情報を分析して観光地の混雑状況を可視化し、リアルタイムの混雑状況や混雑予測を公開します。また、駐車場・トイレなど、観光客がよく利用する施設の混雑状況を公開し、集中を防ぐのも有効です。

それらの情報をもとに、渋滞の代替ルートや別の観光スポットを提案することもできます。その場合、近くの観光スポットと協力して交通機関や環境を整備し、受け入れ体制を整えることが必要です。

情報発信や入場制限で観光客の集中を防ぐ

あまり知られていない観光スポットを紹介し、観光客をそちらに誘導することで観光客の集中を防ぎます。

さらに、集中する観光スポットを有料化したり、事前予約制を取り入れたりすることで自然に入場を制限することが可能です。これらの対策をスムーズに進めるためには、予約とキャッシュレス決済ができるアプリやWebサイトを用意する必要があります。

その他、観光マナーを啓発する、観光税や宿泊税で対策費を確保するなどの方法もあります。

位置情報データによって人の流れを分析・予測することで、観光客の集中や混雑を防げるようになります。

位置情報を活用してオーバーツーリズム対策をしている事例

最後に、位置情報データ(人流データ)を活用してオーバーツーリズムの対策を行っている事例を紹介しておきましょう。

スペイン・バルセロナ

スペインのバルセロナではオーバーツーリズムの対策立案において、データやアンケート調査に基づく分析(データドリブン)を重視しています。具体的にはSNS運営会社からユーザーの位置情報を提供してもらい、時間ごとの観光地の混雑状況や、観光客が集中する地域の割り出しを行っています。バルセロナではこれらのデータをもとに、観光客の目的地を分散させるための新たな地域交通のバスルートの設定、観光客が集中する場所及び時間を避けた観光ツアーの提供などを行っています。

リアルタイムでユーザーの位置情報と人の流れを確認できれば、オーバーツーリズム対策の効果測定が効果的に行えるのです。

まとめ:オーバーツーリズムの対策として位置情報を活用しよう

ここ数年は、コロナ禍により全世界的に旅行者が減っていました。しかし、パンデミックが収束した現在では観光地に観光客が戻りつつあります。今のままでは、日本各地でオーバーツーリズムが問題になるでしょう。それぞれの観光地では、あらためて対策を練っておく必要があります。

情報発信や交通機関での工夫だけでなく、最近は新しい技術を使った方法も広まってきました。特に、観光客の位置情報を取得して、AIで混雑予測を行ったり、過去のデータを用いた混雑回避策を講じたりすることで、人流を分散させるのが有効な対策です。

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