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【事例インタビュー】コロナ禍における人の移動とは?京都市内における人流データ分析事例/立命館大学様

今回は、ブログウォッチャーの人流データを用いて
コロナ禍における京都市の人口分布について研究を行っている
立命館大学の花岡和聖准教授(以下、花岡先生)にインタビューをさせていただきました。

今回の取組概要や背景、パートナーとしてブログウォッチャーを選んでくださった背景についてお聞きしていきたいと思います。

*お話しいただいた方
立命館大学 文学部 地域研究学域 地理学専攻
花岡 和聖様(写真左)

*インタビュアー
株式会社ブログウォッチャー
プロファイルパスポート事業部
ソリューションセールスグループ 石川 隆寛(写真右)
営業企画チーム 末永 千紘

1)花岡先生の研究内容について

写真:立命館大学 地理学専攻 花岡和聖准教授

ーーまずはじめに、花岡先生の研究内容について教えてください。

私は地理学の中でも、
主に地理情報科学と災害復興研究、地域人口分析を専門にしています。

近年、国勢調査等の公的調査の個票データや
携帯電話の位置情報に基づくビッグデータなど、
従来にはない詳細で大規模なデータが増加しています。
東日本大震災からの災害復興、街頭犯罪、国際結婚や家族形成をテーマに、
このような新たな大規模データを活用した空間分析や人口分析を進めています。

また国内外を対象に、
地理情報とフィールド調査を連携させた研究も目指しています。
例えば、過去には京都の町家の保全を目的に、
町家一軒一軒を調査しデジタル地図にする調査にも関わりました。

ーーなるほど。地理学のあらゆるシーンで多様なデータが活用されているんですね。

そうですね。
地理学そのものが実は街づくりやマーケティング、
経済格差などといったあらゆる分野との結びつきが強いので、
調査や分析の際にはデータが不可欠になります。

地理学の世界も紙地図を用いた研究から、
近年はデジタル地図や統計データを積極的に取り入れた研究も
非常に多くなってきています。

私自身は、もともとは国勢調査などから
小地域別人口の推計方法を研究していましたが、
ビッグデータが登場してきたことで、
そうした推計というよりも大規模なデータそのものを使って
都市内の社会空間構造を研究するというようにシフトしています。

ーー地理学においてなぜ人流データが役立つのでしょうか?

写真:ブログウォッチャーの位置情報データを活用した分析内容①(花岡先生の研究資料抜粋)

色んな観点がありますが、
地理学における「時間地理学」という考え方と位置情報データの親和性が高い、
というのがひとつ挙げられると思います。

「時間地理学」というのは、
空間に時間軸を加え、住民の移動軌跡を三次元的に捉えることで、
個人や社会を取り巻く環境と
住民の生活空間の特徴を論じるアプローチのことを指すのですが、
例えば今回でいくと
コロナになって人の移動やその範囲がどう変わっていくのか
ということが学術的にも関心があったんですよね。

ただ、従来の方法だとパーソントリップ調査やアンケート調査しかない。
こういった方法だと
どうしても”静的”でありかつ”点”のデータしか取得できなかったり、
ごく少数のデータになってしまう傾向があるのですが、
GPSを活用した位置情報データであれば
一度にたくさんの”動”的なデータを得ることができます。

常に変わっている都市の状況を正しく、
しかもこれまでと全く次元の違う解像度で捉えられるのですから、
位置情報データはやはり地理学には欠かせないデータだと捉えています。

2)ブログウォッチャーとの共同研究について

写真:学会での研究発表の様子

ーー今回はどんな研究だったのでしょうか?

今回は、
スマートフォン端末の移動ログを記録した空間ビッグデータを用いて(※)、
京都市の都市内人口分布の時空間的把握を試みた研究についてになります。
特に新型コロナウィルス感染症拡大期(コロナ禍)でもあった
2019年1月から2020年12月における24ヶ月間に焦点を当て分析を実施しています。

これまでも、
携帯電話のデータから都市内における空間利用の分化を明らかにする研究や
商業施設と都市の多様性の関係性などを論じた研究はあったものの、
これほどの大量の位置情報データを活用した研究はほとんどありませんでした。

だからこそ、今回の研究が地理学的な研究において、
従来の研究課題に対する新たな分析・知見を提供できるのではないか、
という思いや、
新しいデータならではの研究課題の発掘につながる可能性がある
と思い取り組みました。

※ブログウォッチャーでは、ユーザーの使用許諾が取れた位置情報データのみを利用しています

ーーコロナ禍を対象とした研究の課題とは

コロナ禍においてはたくさんの研究が発表されていますが、
詳細な地域レベルで都市内部における人々の行動変容を可視化した研究は
そう多く見ません。
特に都心から郊外を含む1つの都市全体に焦点を当てて、
そのミクロな地域的差異に言及した研究は少ないので、
その点において新たな知見を得られたのではないかと思います。

また、滞在人口の量(増減)が報道されることはありましたが、
その地域的な違いは十分に考慮されてこなかったのが事実です。
量的な変化ももちろん重要ですが、都市は極めて多面的な構造をしています。
だからこそ、
今回流入人口の地理的分布や多様性を捉えることができたことは、
今後、都市の機能的特徴の把握や感染リスクの観点からも
重要な指標になるのではないかと考えています。

ーー研究の結果、どのようなことがわかったのでしょうか?

写真:ブログウォッチャーの位置情報データを活用した分析内容②(花岡先生の研究資料抜粋)

市内居住者の生活範囲においては、
コロナ禍によって生活者が自宅周辺で過ごす時間の割合は
2020年5月には前年同月比で増加し、
緊急事態宣言解除後も前の水準には戻らず、一定数高いままで推移していました。
これは、コロナ禍がいったん落ち着いた時期でも
外出行動を自粛するモードだったということを示しています。

また、市民の主な外出先であった京都市中心部での滞在時間は
コロナ禍を境に大幅に減少していることも分かりました。

一方で周辺の住宅地では滞在時間が相対的に増加した状況が可視化されており、
京都市中心部をなるべく避けた行動を伺うことができました。
これはおそらく店舗の休業や人の混雑を避けた行動等の影響が考えられます。

その他、コロナ禍の中で多様な地域からの流入は
ストップしていることも判明しています。
緊急事態宣言後は、
もともと府外からの流入が多い地域では回復傾向にありましたが、
それ以外の地域では継続した減少がみられました。

まだ研究の初期段階ではありますが、
市全域や中心部を対象とした滞在人口の量的分析では見落としていた傾向を、
本研究で定量的に示すことができました。

3)パートナーとしてブログウォッチャーを選んでいただけた理由

写真右:株式会社ブログウォッチャー 石川 隆寛


ーー位置情報データを扱う会社は他にもあると思いますが今回、ブログウォッチャーの位置情報データを採用いただいた理由をお教えいただけますでしょうか。

まず1つ目は、圧倒的なデータ量です。

実は位置情報データを活用するのはブログウォッチャーさんが初めてではなく、
もともとは複数の会社さんの位置情報データを取得し分析に活用していました。

ただ、データの量に課題がありました。
地理学においては、都市の全体的な傾向を面的にしっかり捉えられるか、
つまりデータ量が担保されているかどうかが非常に重要です。
たとえ小さい空間単位であっても、
しっかりデータを揃えられるかどうかが研究そのものの良し悪しに影響するのです。

そんな中、たまたま知り合いの方にブログウォッチャーさんを紹介いただき、
その際にサンプルデータをいただいたのですがデータ量の多さに驚きました。
試しに集計したところ、ID数・ログ数ともに別格だったのです。
このデータは活用するしかないと思い、すぐに協働を決めました。

図:ブログウォッチャーのデータ量(公式資料引用)

2つ目はデータの細かさです。

都市を多面的な視点から研究していく地理学においては、
例えば居住エリアや勤務エリアなどといった
生活者の”属性”まで捉えられるかどうかというのが非常に重要です。
位置情報データ単体だけでは不十分なのです。

他社さんのデータの場合、
例えば居住エリアの情報が欠落していたり、欲しい位置精度が不足していたりと
どうしても研究材料としては不十分だった部分がありました。

そんな中ブログウォッチャーさんのデータは、
特定の場所に住んでる人がどう行動してるのか、
どこに移動しているのかなどというように
データそのものを解像度高く見られる(※)のが非常によかったです。
このコロナの研究以外にも、
例えば施設設置などマーケティングの分野でも役立つデータだと思っています。

※ブログウォッチャーでは、個人を特定しない汎化加工を実施しています

特に今回のコロナのような研究においては、
世の中のトレンドをどれだけ正確に・リアルに届けられるか
と言う部分が大切になってくるのでそういった面でも大変助かりました。

4)人流データの可能性・学問における展開性について

ーー今回の取組の今後の展望や、位置情報データに求めることについて教えてください

この研究はコロナ禍を対象にしていますが、
今後また通常の流れに戻っていくことが想定される部分もあるので、
コロナ禍じゃない人流の動きやその年の特徴というのを調べていけると
面白いなと思っています。
そしてその際には、
さらに細かい属性とセットで分析できると
さらに面白い発見があるのではないかとも思っています。

また、私個人の研究ですが外国人の研究をしているので、
彼らを多面的に捉えることができるよう、
移動ログだけではなく年齢・性別・国籍・ライフスタイル・趣味など
多様な面から研究をしていきたいと思っています。
ですのでそういったデータがより精緻に見れると嬉しいなと思っていたりしますね。

ーー花岡先生から見て、地理学以外で位置情報を活用できそうな学問や分野はありますか?

例えば大学関連であれば観光の領域は親和性が高いと思います。
観光を専門にしている先生はよくモビリティやMaaSの議論をしているので
その中での位置情報データの展開性はあると思っています。

上に挙げたコロナや外国人の研究同様、
位置情報データは別のデータと掛け合わせることで
面白い発見や気づきが出るものだと思うので、
ぜひ多様な分野で活用されればと思います。

 ーーデータ分析の手法や価値はまだまだ上げていけると思いますので、引き続きお願いいたします。

ーー本日はありがとうございました。