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#2 ビッグデータを活用した、まちづくり最前線 第二部「八重洲・日本橋・京橋エリアのまち作り、多様な来街者をデジタルで捉える」/ イベントレポート

今回は計量計画研究所、東京建物様、日立製作所様と合同で行った
講演会のレポートの第二部です!
人流データをどの様に街づくりに生かしていくのかを実例を交えながら紹介していきます!

==========お話いただいた方==========

東京建物株式会社
街づくり推進部
都市政策室兼イノベーションシティ推進室
小島 靖弘様

株式会社日立製作所
デジタルエンジニアリングビジネスユニット
Lumada Business Studio
織田 稔之様

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1)八日京エリアの特徴と都市計画について

「八日京」とは東京駅の東側に広がる八重洲・日本橋・京橋のエリアを指します。
最近ではこのエリアの英語の頭文字をとって「YNK(インク)」という呼称でブランディングしています。
このエリアは弊社の本社があることを初め
非常にアセットが集中しているということがまず一つ特徴として挙げられます。

その中でも、2013年に竣工された東京スクエアガーデン(画像左上)や
東京建物日本橋ビル(画像左下)といった既存の拠点の施設。
また、今後2025年から2032年にかけて、八重洲や京橋で再開発を立て続けに行い、
新たな拠点が整備されるという大きな特徴が1つあります。

また、このエリアでは
2040年代にかけて首都高速道路の日本橋区間が地下化事業(画像左)であったり、
東京高速道路(KK線)の再生事業が計画されており、
YNKエリアが個別の開発に限らず面的に再開発を行っており、変化が起きています。
そのため、我々まち作り推進部としては、
このエリアの価値を面的に向上させていくために日頃業務にあたっています。

国土交通省が掲げる『ウォーカブル』とは?

そんな中で、我々まち作り推進部が展開・検討してる施策としては
主に画像左側に記載されたものがあります。
その中でも今回は「ウォーカブル」を大きな目的にしました。

「ウォーカブル」とは、一言でいうと「居心地が良く歩きたくなるまちなか」というイメージで、
国土交通省が掲げるまち中のイメージの一つです。

文字通り、「歩きたくなる」環境を整備するというところもありますし、
「Diversity」という記載があるように、
「多様な方々の多様な用途」といった観点も非常に重要だと考えています。

ウォーカブルを推進する手段として人流データを活用

このYNKエリアには以下のような特徴があります。  

・道路占有率が高く、路地が多い
・東京駅・日本橋駅・京橋駅といった地下空間が充実している
・YNKエリア周辺には、銀座・丸の内・大手町・有楽町といった非常に著名なエリアがある

こういった特徴があるなかで、
人流分析によって実際人々はどのような動きをしているのかというファクトを
コロナや、今後の再開発といった世の中の動きを踏まえて分析していきたいと考えていました。

3)BWのデータでどのようなことが見えてきたのか?


今回、八日京の人流分析を進める中で、
一つの大きなキーワードとして「ダイバーシティ」があると考えています。
なので、八日京に来られる様々な人の属性を捉えたいと考えました。

属性情報や移動情報を分析し、八日京の特徴を可視化

今回はブログウォッチャーさんのデータを使い分析をしました。
そのデータの特徴としては、男女の性別・年代といったデータが細かく取れていることと、
出発点・到着点・15分以上滞留している場所を自動的に抽出し、
それを画像右の図のように可視化することにより、
交錯して動きでも分かりやすくなっている点だと思います。

実際に今回の解析の対象にしたのが昨年2022年9月の1月に来られた方々の動きを捉えたデータです。
行った場所は「…」で示されています。

ポイントは、左側が地上部分の動き、右側が地下ネットワークの動きを捉えたものになってます。
この地下のデータがわかるのが、
ブログウォッチャーさんのデータを使いたいと思わせた一番の動機になってます。

あと、左の図で八日京の中でも空白地点が沢山あるのがわかると思いますが、
吹き出しに書いてある通り工事中の場所になります。
これが八日京の特徴の所でも言われていた再開発を行っている場所になります。

実際に八日京にきている人の属性・目的を可視化

続いて、実際に分析をしてみて、来街者はどんな人たちなのかを調べてみました。

1つは性別・年代の構成です。
男性が約6割で、年代構成でいうと30代・40代・50代が多いと言うことで、
ある程度予想はしていましたが働く方が多そうだなと感じました。
しかし、特定の性別年代だけでなく、本当にいろんな人が来られてるということがわかりました。

また、サラリーマン会社員が多いのではないかという想定もあり、
頻繁に来られる方々のグループを抜き取りたいと思い分析したのが定期来訪者という考え方です。
今回は9月1ヶ月間で4回以上来られてる方を定期来訪者として仕分けてみると、
半分の方がリピーターでした。
これも、想定通りではあったんですが、
残り半分が遊び・用事でたまたま来られたのかという方々も半数いると言うことで、
やはり様々な方々が来られてるなということがまずつかめました。

2つ目が、平日と休日の動きに着目して分析してみました。
画像左側のグラフは曜日別の人の量を示しています。
ここからわかることは、やはり平日の方が休日の2倍ぐらい人手があるということがわかりました。
これは想定通りといった所でした。

一方、画像右側のグラフは曜日ごとの定期来訪者とそうでない人の割合を調べてみると、
平日は定期来訪の方がほぼ半数で、やはり働きに来られてる方が多いのかなと感じました。
また、土日になりますと働く人というよりは、
多分遊びに来たのか買い物に来たのかという方々が非常に多いということがわかりました。

少し気になったのが、定期来訪者の方々は平日が多いんですが土日も来られています。
そこで、それぞれがどんな動きをしているかを細かく調べてみました。

曜日ごとの来街者の特徴や属性まで徹底的に分析

上の画像が定期来訪者の方々の曜日別の動きです。
左側が平日の来訪地で、右側が休日の来訪地です。

左右見比べてみると、平日は主にオフィス機能が充実しているところが多く
働きに来られてる方が多いということを改めて確認しました。
休日の場合は、やはり商業施設が非常に多いです。
なので、例えば、買い物が好きの方、
デパートとかショッピングモールで働くサービス従事者の方々とかも、
もしかしたら含まれてるかなというふうに思います。

また、上の画像は実際に平日定期来訪者の方々が、
八日京のどこに滞在されてるのかをヒートマップ形式で分析した図になります。
まず全体見て八日京のどのエリアにも皆さん行かれていることがわかりました。
特に赤くなってる場所は、オフィス機能以外にも商業機能など多様な機能を持ってる場所で、
やはり人手が多いなと感じてました。

加えて、八日京には大小様々な道路があり、
皆さんどの道を使って移動されてるのかを、ヒートマップで出しました(上の画像)。

ぱっと見るとどの道路も皆さんよく使われてることが分かりますが、
特徴的だと思ったのが、南北の真ん中に走っている中央通りが
八日京の中で、最も強い動線になっているのかなと思いました。
それ以外のところで特徴的だと思ったのが、
高島屋のすぐ西側の「さくら通り」が、高島屋にいく際によく使われているのか、
幅員が狭いわりにものすごく人が来られてるなと意外に感じました。

今度は、地上と地下を見比べた図で、画像上が地上、画像下が地下のヒートマップになってます。
地下は東京駅・日本橋駅・京橋駅に繋がった地下道がありまして、
駅出てすぐで利用される方がものすごく多いことが分かりました。

この他にもたくさんの分析をしたんですけれども、
今日は概要のご紹介ということでここまでとさせていただきます。

3)都市計画における人流データの有効性とは

これからは小島さんと街づくりや人流についていろいろとお話していきたいと思います。

より高い解像度で都市を捉えることができる

織田ーーー

今回ご一緒して様々な分析をやって来ましたが、
率直に見て来街者をデジタルで捉えることについて、
どんなことを感じられたかを教えていただきたいです。

小島ーー
今回、織田さんからのご説明にもあった通り、人流分析で人の動だけではなく、
例えば性別・年齢・定期的に来訪しているかなど、
様々なことを非常に解像度高く、理解できたなって言うのは非常に勉強になりました。

織田ーー

私も八日京の分析をやっていて本当かなと思うものも結構あったので、
参考に他の都内のエリアの属性の分布を確認してみたんですよね。
そうすると、八日京は働く世代の分布が多いなってこともわかるので、
八日京に限らず、町の特徴をこういったところから映し出せるんじゃないかなと思うんですよね。

小島ーー

本当にそう思います。
定期来訪者が半分ぐらいということは想定通りだと仰っていたと思いますが、
逆に個人的には意外だと思っていました。
八日京は小企業やオフィスビルが多く集積しているエリアになっているので、
むしろほとんどがワーカーなんじゃないかと思ったんです。
でも、実際は半分くらいなんだっていう感覚がまず一つありました。

そういう数字を理解した上で街を歩いてみると、
確かに本当に来街者なんだろうなっていう方もいますし、
スーツを着ていてワーカーさんに見えても、
定期的に来る方ではなく打ち合わせのために来ている方だとか、
そういう人の見方がより解像度が高まったなというふうには思ってます。

あと、個人的には面白いなと思ったのが、
地下の方が、定期来訪者の方が多く利用してるっていうのは非常に面白いというふうに思いました。
東京駅は鉄道や高速バスのネットワークが充実しているので、
不慣れな方は地上に出てなるべくランドマークを探して歩きたくなり、
地下は入り組んでいたりわかりづらい構造になってるので、
そういったところは日頃使い慣れているオフィスワーカーなどの定期来訪者が使っているんだな
っていうのは、実際の数字を見てなるほどなとなりました。

データを元に戦略や仮説を立てられるかどうか

織田ーー

 次に、今回いろんなデータを見てこられたと思いますが、それからどの様な学びを得ましたか?

小島ーー

社内ですごく議論になったところですが、
例えば男性の比率が半分だとか、定期来訪者が半分だったこの数字自体が
良い数字と見るか悪い数字と見るかという所で、まず議論が起こりました。
やっぱり数字だけを並べて見ても、例えば男性が多いことをポジティブに捉えるのか、
あるいはもう少し女性の比率を高めたいと思うのかを決めるためにも、
自分がこの街をどうしたいかの戦略が必要だったのかと思いました。

なので、こういった分析をする際は、
一定の仮説やビジョンみたいなものを持った上でやらないと、
せっかく出たデータの使いどころがなくなってしまうことになりかねないと感じました。

織田ーー

私もすごく学びがありました。
例えば、今までいろいろデジタルマーケティングの仕事をやっていて、その中でデータを見て、
ボリュームゾーンを見つけてそこをめがけて施策を考えてやるという型が割と癖がついていました。
ただ、今回のプロジェクトでは、属性ごとに分けたり小さいところにも光を当てて、
動きを捉えるということをやっていました。
そこで、やっぱりいろんな方が街を行き交うことが賑わいに通じる
というダイバーシティの精神を大事にしてデータを見るということが
新しい視点だったなと勉強になりました。

小島ーー

私も先ほど紹介した国土交通省の出されている「ウォーカブル」の思想にも、
ダイバーシティなど居心地の良い空間というところを大切にしていると思います。
例えば、体が不自由な方以外にも、このエリアに実は学校があって、
そういった学生や、あるいはもう少し小さいお子様をお連れになってる方々など、
いろんな方々の居心地がいいところを我々なりにこれからも町に実装していきたいと思っております。

これからのデータ×街づくりについて

織田ーー

ありがとうございます。
そういったいろんな街作りを進めていくに当たって、
何かもっとこんなことを知ってみたいとか、
デジタルを使ってみたいというようなイメージがあったら、そちらもお話いただけないでしょうか。

小島ーー

まず一点は、私の人流分析の狙いのところでもお話した通り
このエリアは今後も再開発が立て続けに行われていきます。
そうすると、分析をした結果、ワーカーの割合であるとか男女の比率であるとか、
地上と地下の使い方って、今後大きく変わってくんじゃないかと思ってますので、
そうした変化をウォッチしていきたいです。
そうすることで、次にどういう変化が起きるのか予測したり、
今までやってきたことが正しかった施策なのかを検証し、PDCAサイクルを回していきたいです。

織田ーー

そうですよね。
冒頭ご紹介いただいた通り、5年、10年たつと街もすごく変わってくると思います。
なので、ビルを作るだけじゃなく、いろんな施策が生まれると思うんですけども、
やっぱり、やりっぱなしは駄目だと思うんですよね。
なので、変化を追うことはとても大事だと思いますね。

小島ーー

実際どういった人たちが来たのか、やらなかった場合どうだったか
みたいなところはしっかりと振り返らないといけないです。
振り返れることが今後どんどんデジタルデータを活用してできていく
ってことが非常に大きな学びだったなと思ってますね。

あと、もう一つあるのが、
今までだったら車でご移動してる方々をなるべく歩いてもらうために、
居心地の良い空間を提供したいと考えます。
しかし、まさにこれも振り返りという観点で
「本当に歩いてもらった方がこのエリアの活性化に繋がるのか」
という検証を人の動きだけではなく、
経済的活動などのいろんな他のデータと今後紐付けられていくと、
より一層、振り返りであるとか今後の施策の検討というところに繋がっていくのかなと思いました。

織田ーー

そうですよね。
人流で動きを捉えるっていうのは一応できるんだけど、
その結果、例えば消費が生まれたら、
クレジットカードの決済データをエリア別に調べたりする方法もありますので、
何月頃、どんなイベントがあったときに
というようなことを突き合わせて人の動きと合わせてみるとかも考えられますね。
あとは消費だけじゃなく、
SNSで今投稿されてる写真・言葉を解析するテクノロジーも進化してるので、
八日京に来られた方が何を思われて、どこにフォーカスしているか、
そういったことも結構捉えられると思うんですよね。

小島ーー

それはすごい大事な観点ですよね。
やっぱり数字のその量の多い少ないだけではなく
その人たちがやっぱり居心地がいいって思っていただかないとやってる意味がないですので、
その人が本当に居心地が良いとか、幸せを感じるとか、
何かそういったところが本当に紐づいてくると、
本当に街の良さがどんどん磨かれるのかなと思います。

4)街をより良くするために

織田ーー

ここまでいろいろディスカッションしてきましたが、
最後はテクノロジーとかを使って、
街をいろんな形でアップデートするお手伝いができないかなと思って考えてきたことがありますので、
そちらを少し紹介したいと思います。

まずその中で、
何をやるかの前に、どうなってほしいかみたいなことを五つのキーワードで今整理してます。

こういったキーワードを胸に抱いて、
いろんなテクノロジーの埋め込むチャンスを伺っていきたいなと思っています。
では、いくつか具体的なサンプルでピックアップしてきてるので紹介したいとお思います。

「集う」に着目した提案

1個目は、「集う」に着目したものです。
これはオフィスの中で置くような無人販売ソリューションみたいなものを日立でやっていて、
置き場所としてはオフィスの自販機コーナーの代わりに置くということが考えられます。
ちょっとした休憩に簡単なお菓子を食べながら、
ディスプレイの情報を見ながら語らうというような使い方ができるんじゃないかなと思ってます。

小島ーー

面白いですね。
コロナの影響で今まで外に出て行っていた仕事をオンライン上で完結できるようになって、
オフィスの中で過ごす時間がすごく伸びてきたと思います。
そうした意味で言うと、少し環境変えてちょっと軽食をとりながらとか、
雑談の中で何かお仕事の新しいイメージを膨らませる
っていうそんな環境ってすごい大事だと思います。

「過ごす」に着目した提案

次は「過ごす」に着目したコロナ禍のヨーロッパで取り組まれてる事例です。

ベンチはベンチなんですけどスマートベンチみたいな形で、
スマホの充電ができたり、情報を取り込めるものになっています。

小島ーー

先ほどの事例の分析の中でも出てきた中央通りに、
昨年ベンチを置かせていただくっていうプロジェクトをやらせていただきました。
それは普通のベンチでしたが、やはりそういったものを置くことによって、
そこに座っていただく方がいて、明らかに動きが変化が生まれたところもあります。

織田ーー

これも「過ごす」に着目したもので、アメリカなどで行われているスマートポールというものですね。

これは、デジタルサイネージみたいな情報を提供したり、
安心安全の見守りしたりといったことができます。
また、ポールがいっぱいあれば、
ライトを使って人の動きをガイドしたりといった様々な用途に使えるんじゃないかと思っています。

小島ーー

最後におっしゃられた「安全安心」ってすごく大事なキーワードだなと思ってます。
いろんな方々が居心地よく過ごすためにはやっぱり、
安心安全が大前提でなければいけないなと思います。
なので、こういった遠隔でセキュリティの高い状況が保てるっていうのは素敵だなと思います。

織田ーーー

こういったベンチやスマートポールを街中に入れようと思ったとき、
電気をどうやって24時間持ってくるのかという問題があると思います。


これはマイクロ風車発電といい、1.5メーターぐらいの高さの発電機です。
扇風機ぐらいの風があると回り始めるとても効率の良い発電機で、
こういったものをうまく使うと、
街の中にスマートベンチやスマートポールを作る際に役立つんじゃないかなと思っていまして、
エネルギーの関係ですごく大事な観点だと思ってます。

小島ーー

脱炭素っていうのはもう本当に大きな社会問題だと思ってます。
これは我々のまち作りの観点でもすごく大事なテーマだなと思っていてます。
まさに、電源をどう引くかっていうインフラ的な観点もあれば、
その電力の質という観点でも、クリーンな電力を使っているのですごくいいなと感じました。

織田ーー

今回でのご紹介は以上になるんですけれども、
本当にいろんなアイディアがたくさん出てくると思うので、
いろんなステークホルダーの方々と一緒に
たくさんの知恵を集めて繋いでやっていきたいなと思います。
なので、そういったところで一緒に仲間を集めつつできたらと思っています。

小島ーー

本当に今回の人流分析を通しても、
一社だけで分析ができたかと言われたら、全然できなかったので、
本当にいろんな方々のお知恵や気付きみたいなものもいただけると、
それこそ多様性もありますし、より具体的で訴求力の高い施策が検討できるようになると思います。

今日はお時間いただきありがとうございました。
これからも皆さんと一緒にやっていきたいと思うのでよろしくお願い致します。