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#1 ビッグデータを活用した、まちづくり最前線 第一部「ウェルビーイング時代のスマートプランニングとは?」/ イベントレポート

今回は計量計画研究所様、東京建物様、日立製作所様と
合同で行った講演会レポートの第一部です!
人流データに対する期待がましている中で、
人流データがウェルビーイング時代において
どういう意味を持つのかを事例を交えながら解説していただきました!

==========お話いただいた方==========
一般社団法人計量計画研究所
都市地域・環境部門長
石神 孝裕様
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昨今、都市計画や街づくりをする上で、様々なデータが用いられています。
そんな様々あるデータの中でも、
今までは画像左のような解像度が粗い図を用いて地域を分析していました。

一方で、新たに位置情報を詳細に把握できる人流データを取り入れることにより、
画像右の図のように、より詳細に
どのくらいの空間規模で人が集まり活動しているかがわかりやすくなりました。

こういった人流データが出てきたことによって、
実際の街づくりや交通計画にどういった変化をもたらすのか
ということをお話ししていきます。

 

1)ウェルビーイングとは?

ウェルビーイングと街づくりの関係性

そもそも、ウェルビーイングとは、
「個人が幸せであること、また肉体的・精神的・社会的に満たされた健康な状態であること」を指しています。
この状態になるためには、「生存」や「生きがい」が重要になります。
「生存」とは、生きていく上で最低限の生命の安全や衣食住のことを指します。
また「生きがい」とは、ただ生きていられることだけでなく
楽しんだり、学んだり、働いたりといった活動を指します。

街づくりにおいてこれらを考えてみると、画像右側の図のように、
それぞれの活動が行われる場所にしっかりとアクセス出来るような環境が、
ウェルビーイングな暮らしを実現できている環境と解釈できるわけです。

ウェルビーイングと人流データの関係

では、人流データとウェルビーイングはどのような関係があるのでしょうか。

街には画像にあるように基盤に活動の場・モビリティーサービス・インフラ・居住地や活動する場所といったスポットが配置されています。
そして、それぞれのスポットの上で人が様々な活動をしています。
こういった構造に対して、
従来のまち作りや交通計画は基盤である様々なスポットを見ながら
計画作りに取り組んでいました。

一方、最近は人流データのお陰で
この上にある人々の活動を見ながら計画を立てることが出来るようになりました。

実は近年、コロナの影響は関係なく人々の外出率は年々下がってきており、
その影響で街の賑わいもなくなってきている実態があります。

こうした状況に対して、「ウォーカブルなまちづくり」という、
いろんな活動機会が提供できる場所を用意してあげ、
人々の外出を促進させるという取り組みが全国的に進んできています。
この取り組みにより人々の活動が活発化することで、
健康で幸せな暮らしに繋がっていきます。

つまり、従来はスポットに着目した分析・検討しかできなかったものが、
人流データのお陰で、
人の流れ・動きを直接見た上でサービスを提供できるようになりました。

国も同じように、従来からやられてきている都市交通調査、
いわゆるパーソントリップ調査でありますが、
こういったものだけで計画作りをしていくのではなくて、
下の方にありますようにビッグデータ・推計人流データなども活用しながら、
様々な政策事業を検討し、
その結果としてSDGsやウェルビーイングの実現に繋がる
という考え方が示されてきているということであります。


2)都市計画する上での人流データの利便性とは

人流データの特徴

次に、人流データも含むビッグデータは
どういう特徴があるのかを考えていきたいと思います。

そもそも、ビッグデータとは何かというと、様々な解釈はありますが、
元々はITの活用が進んだことによって
付随的に取得されるようになったデータだと言われています。
ただ、今では、当初と違い
データを取ることが目的化されてきているところであります。

そして、このデータの特性として3つのVがあると言われています。

・Volume:量が多い
・Variety:データの種類が多様である
・Velocity:データがすぐ取得され、すぐ使える

この中でも最後のV、Velocity=「速さ」が非常に大きな特徴だと思います。
従来、何かを調査する場合、
例えば郵送物を送って、回収・集計してと、非常に時間がかかっていました。
しかし、ビックデータを使うことによって、
すぐに取り組みをしたことの結果がわかるようになりました。

このビッグデータは、実は重要な点を見逃して使ってる場合が多いです。
その重要な点とは、ビッグデータは基本的に汚いデータであるということです。
ビッグデータはスマートフォンのGPS等でセンシングしたデータなので、
ビルの谷間や地下であったり正確なデータが取れていない場合が多々あります。
その点を認識せずに使ってしまうと、
「思ったよりデータが汚くて使えない」と思ってしまいます。


右側はそのデータが偏る可能性があるということを示しています。
これは自転車の走行実績をヒートマップで示しているものです。
この青い線はアプリで取ったもので、黄色い線は観測したものです。
上の画像のデータを見ていただくと、
黄色い線が太くなってる場所と、青い線が太くなっている場所が違います。

これなぜかというと、
青い線のデータはスポーツ自転車を利用している人の位置情報の履歴をマッピングしたものだからです。
つまり、このデータには
私生活で一般に自転車に乗る人が入ってないということになります。

このように、データの取り方やその捉え方等によって、
ビッグデータには、実際とは異なる状況が表れることが、
当然あり得るということをまず前提として認識しておくことが重要です。


こういったデータの前提がわかっていないと、
画像のように「お金がかかる割にはビックデータって使えない」
というようになってしまいます。
この結果何が起きるかというと、
その次の取り組み繋がっていかず、
一回きりのビッグデータ活用で終わってしまう場合が非常に多いです。
さらに、自治体の皆さんは
何らか政策に繋がるようなデータ分析を求められることが多いので、
そこへの提供価値に見合わない場合には
なおさら次に続かなくなってしまう場合があります。

そうならないためにも、
データは「汚い、偏る」ものであることを理解した上で、
このビッグデータをどう使っていけばいいのかが重要になってきます。

人流データでできること


これは富岳(*1)を使って行われた「マスクの付け方によって飛沫がどのように抑制されるのか」ということを計算して表した図です。
これを見る際に気をつける必要があるのは、
この飛沫がどのくらいのボリュームでてくるのかを正確に把握するための計算ではなく、
マスクの付け方によって飛沫の飛び方がどう変わるのかとを判断するためにやったものであることです。

つまり、どういう対策が有効であるかを考えるために、
こうしたデータを使っていると考えられるわけです。
この例のように、飛沫の量が重要ではなくて、
どういう取り組みをしていけばいいかを考えるきっかけとして、
こうしたデータを使っていくことが重要ではないかと思っています。

*1)理化学研究所と富士通が2014年から開発を進めてきたスーパーコンピュータの名前

なのでこの「汚い・偏る」を前提としたビッグデータの使い方として、
仮説作り(引っかかりを探す)と効果検証(次に生かす)があると思っています。
ビッグデータは、データが取れる人に偏りがもあるかもしれないですが、
逆に同じ人からデータをずっと取ることができると考えれば、
モニターというふうに解釈できると思います。
そうすると、ある取り組みをやったことによる効果を
モニターを通じて把握しているのと同じだと考えられます。

岡山の事例

これは弊社でお手伝いした岡山の事例です。
左側に岡山駅エリアと右側に既存商店街エリアがありまして、
この間の行き来をもう少し増やしていきたいという取り組みです。
具体的には、
2つのエリアの間にある県庁通りの車道を少し狭めて、歩行空間を広げる
という取り組みと、
西川緑道公園筋という通りでオープンカフェをやる
ということで、この2地点の間の移動を促進する社会実験を行いました。

今回の分析は、人流ビッグデータではなく、
観測した移動のデータを使って分析をしています。
まず、画像左側は地域ごとの人の動きを表すデータを見ると、
移動が駅周辺と天満屋という地域に集中しており、
2つの地域間の行き来がなかなか行われていないということが分かります。
そこで、先ほどの社会実験を行ったところ、画像右下の網図にあるように、
社会実験中のデータの方が県庁通を多くの人が移動するようになり、
この地域への平均滞在時間が、23分ほど増加したとことがわかりました。

このように、何かをやったことによる効果は
「汚い・偏る」データでも把握できるとことが分かります。

また、上の画像は、岡山駅と天満屋との間の回遊経路を分析したものであります。
通常時は、画像右側にある青色と、
緑色の県庁通りを通るルートを使ってる人が全体の20%しかいませんでしたが、
社会実験のときには、この経路を使う人が6割に増えたということが分かります。
赤色やオレンジ色の経路は、
実は大きなビルがあるだけで通り自体に面白い施設があるわけでもないのに、
何となく経路として選ばれやすくなっていました。
なので、こうした経路に人が分散してしまうのを
県庁通りの方に誘導することによって、
もっと賑わいのある通りになり、沿道で新しい商売が生まれてくるといった、
県庁通りを軸とした街作りが考えられるのではないかと思います。
そしてそういったきっかけを作るために、こうしたデータ活用が有効だといえます。

3)スマートシティを推進する上で人流データに求められること

将来のビジョンを描く手段としての人流データの活用


最後に、人流データへの期待について、
それがスマートシティとどのように関わるのかを少々お示ししたいと思います。

これまで、コンパクトな街づくりやウォーカブルな街づくりに取り組むことで、
より持続可能な街づくりを推進してきました。
しかし最近は、IT技術の発展に伴い、
自動運転などのスマートなテクノロジーが出現し、
街の形成に重要な役割を果たすようになってきました。
これはコンパクトやウォーカブルといったアプローチだけでなく、
様々な技術を取り入れながら都市計画を考えることが、
一段と重要になってきたと言えます。

それぞれの手法やプロセスを考える際、
ビッグデータなどが重要なツールとなります。
都市の将来ビジョンを描く上で、そして
コンパクトな街づくりやウォーカブルな街づくりの計画をデータ駆動で進める際に、
人流データは大いに役立つと思います。
さらに、人々の移動データを用いて
スマートテクノロジーによる新たな解決策を見つける場面でも、
人流データは十分に活用できます。

また、人流データを用いて近未来の状況を予測する技術も発展してきています。
このように、各フェーズにおいて人流データは活用できると考えています。

ビジョンを作成する際、ワークショップが行われることが多いですが、
社会が大きく変化する中、未来の形を考えるだけでなく、
データに基づいた仮説を作り、
シミュレーションを行いながら考えていくことが重要になってきています。

したがって、シミュレーションやデータの利用をより容易にすることが重要です。
人流データがこれまでのように活用されていることを考えると、
人流データは非常に進歩してきていると言えます。

持続可能な活用手法を確立できるか

画像左側のグラフは、人々の移動の目的を表しています。
従来、人流ビッグデータでは目的は明確でないとされてきました。
しかし、最近では、その目的を推定し、
分析に活用することが可能となってきています。
推定であるため精度の問題が存在するかもしれませんが、
データは確実に進歩しています。

そのため、一度で諦めるのではなく、新しい手法を探求し、
持続的に追求することが重要だと考えます。
画像右側の図についてですが、個々の移動ではなく、
同一の人が1日の中でどのように連続して移動しているかを知ることが重要です。
これを我々は「チェーン」と呼んでいます。
例えば、A地点からB地点へ、B地点からC地点へと移動し、
C地点から再びA地点へ戻るといった一連の移動を、
同一の人が行っていることを把握することが重要です。

単純に移動の量が多いか少ないかというだけではなく、
どのようなパターンで生活しているのかを理解し、
その拠点や移動の空間的な範囲を理解することで、
それを都市計画や交通計画に活用します。

このような視点から、人流データには大いに期待が寄せられています。
まとめとして、以前は見えなかった人々の動きが、
人流データによって可視化されるようになりました。
ただし、これはセンシングした結果なので、エラーは必然的に存在します。
そのことを理解することが重要です。
人の動きが直接的に把握できることで、
ウェルビーイングの評価も容易になりました。

このようなデータを手掛かりにし、新たな政策の考案に活用することが可能です。
ただ一度で成功しなかったからと言って諦めるのではなく、
継続的に使用することが実際には重要です。
成功しなかった経験も実績として活用することができ、
それを踏まえた上で次に進むことが重要です。