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キーワードは「壁」!? 国境を越え・職域の壁を越え邁進する IT先進国・中国からやってきた。 /データエンジニア・李 石映雪

今回は2022年度の「&DATA EXPO」のDAY2講演から
株式会社リクルートのデータエンジニアである
李 石映雪さんのインタビューレポートです。

国境・言語・職域の壁など、
様々な壁を越えてきた李さんのお話は魅力的なことが盛りだくさんです。
仕事や生活において感じる「壁」を取っ払って、
積極的になろうと思っていただけるようなお話をお届けします!!

==========お話いただいた方==========
株式会社リクルート
プロダクト統括本部 プロダクト開発統括室 データ推進室
販促領域データソリューション1ユニット 住まいデータソリューション部部長
李石映雪 様
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==========インタビュアー============
株式会社ブログウォッチャー
プロダクトグループ データ開発チーム データサイエンティスト
加藤萌玖

経営企画HRビジネスパートナー
林寛之
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李 石映雪さんとはどんな人?

李さんとはどんな方かを簡単に紹介します。

出身は中国。
中学高校時代にプログラミングを始め、Flash(2*)動画やゲームを自作。
北京大学進学後は、主に機械学習やAIなどの研究を行い、
国際学会での発表機会捻出に向けて研究に邁進されていました。

そして、リクルート入社後は
レコメンドシステムの開発や、データサイエンティストとしての活動だけでなく、
データエンジニアという職域を超える形で運用改善のためのインフラ再構築に取り組むなど、
データで圧倒的に成果を残し続ける最強データエンジニアです。

そんな李さんのことをよく知るために、いくつかの質問をさせていただきました。

(1*)Webページなどでコンピュータグラフィックスを応用したアニメーションやプログラムなどを再生・実行するためのデータ形式の一つ。また、その開発ソフト。

1)どんな子供時代・学生時代を過ごしていたのか?

ーー李さんのような方が、どのような子供時代・学生時代を過ごされたかを教えていただきたいです。

親からは「こういう人になってほしい!」といったものは特になく、
よく言えば自主性重視で結構好きにやらせてもらってました。

それこそ、流行っていたゲームボーイも
「やりたいな」と思ったら買ってもらえました。
もちろん人によっては、ゲームは1日1時間までというルールがあると思いますが、
私の両親は宿題などやるべきことをしっかりやり終えているなら、
好きにやればいいんじゃないかといってくれる環境でした。
なので、やるべきことを自分で決めていく環境で子供時代を過ごしていたと思います。

大学になってから情報系に入りましたが、
入った理由は字を書くのが苦手なので
キーボードが使えるようになれたらいいなと思ったのと、SFが好きだったからです。
大学では、友達と一緒にいろいろ研究や論文を書いて、
国際学会で発表して楽しく過ごしていました。

ーー学生時代にゲーム制作されてたとおっしゃっていましたが、その時からプログラミングを始めたんですか?

プログラミングといってもがっつりC言語などでというよりは、
FlashやちょっとしたRPGツールを使って「どんなものが作れるのかな?」
という感じでやっていただけですね。

2)なぜ中国のテックカンパニーではなく、日本企業だったのか

ーーそんな李さんが学生時代を過ごされた後、リクルートに入社されたと思いますが、なぜ、中国の企業ではなく日本の企業に入ろうと思いましたか。

そもそも、私は進学をしようと考えていました。
なぜかというと、当時、エンジニアとして就職すると、
プロジェクトマネージャーが何を作るか決め、エンジニアがそれを作る、
みたいな体制が主流でした。
私はずっと自由に生きてきて、何を作るかは自分で決めたかったので、
その体制が合わないと思い、進学かなと思っていました。

 一方で、大学で研究などをする中で、いくつか課題に思う点がありました。

1つ目は、研究する上での十分なデータがなかった点です。
大学の研究室はデータを持っていないため、
オープンデータだと限界がありますし、購入だとお金が必要になります。
1から作るにしても、お金が必要になります。

私の場合は感情分析をやっていて、
Amazonのレビューがポジティブな評価かネガティブな評価かを判定する研究をやっていました。
そうすると、当然AmazonのデータやTwitterのデータなどが必要になるわけですが、
そのようなデータは持っておらず、
データ収集を頑張るところからやらなければいけない状況でした。

2つ目は、すぐに実践して試せない点です。
論文発表した後にふと
「私の考えた最強のアルゴリズムがあったとして、これを一体誰が使っているのか」
と言うことを考えることがありました。
素晴らしい理論ができても、
それをユーザーが実際に使って、本当に役に立つかは分かりません。

なので、実際誰かに使ってもらって、実際に役に立ったかを知りたくなりました。
しかし、進学して大学でずっと研究をやっていても、
それを知ることは難しいと感じていました。

そんな中、縁あってリクルートの面接を受けることがありました。
その時、人事の方に「データを集めるお金が欲しくて、プロダクトを使ってくれるユーザーが欲しくて、何をやるか自分で決めたくて、つまり色々なことを自由にやりたいのですが御社ではそういうことはできますか?」と聞いたら、
人事の方が簡単に「できるよ!」といってくれました。
本当かなと少し疑いつつも、
そこまで言うなら試してみようと思い、リクルートに入社しました。

なので、日本の企業だからよくて中国の企業だとダメという話ではなく、
縁があってリクルートの方と話す機会があり、
リクルートであれば自分のやりたいことができそうだなと思ったので入社しました。

3)言語の壁はなかったのか

ーー中国から日本にきた時、日本語が喋れないと言語の壁や心の壁を感じることが普通はあると思うのですが、実際日本に来たときそういった壁や衝撃を感じませんでしたか?ーー

実際、壁はあったと思いますが、
何事も飛び込んでみなきゃ分からないじゃないですか。
たとえ中国に残っていたとしても、言語以外の壁は色々ありますし、
せっかく学生時代に抱えてた課題を解決させてくれる環境があるなら、
そこはチャレンジしてみようかなと思ったのがありますね。

あとは、もともと英語が得意だったので、
最悪英語でどうにかなると思っていたところはありました。
実際に来てみるとみんな日本語しか喋らないのでびっくりしましたが。

4)社会人としての最大の壁

ーー今まで、様々な壁を乗り越えてきたと思いますが、そんな李さんが社会人として感じられた最大の壁を教えてください

今でこそ偉そうに語ってますが、
入社1年目の時はマネージャーと喧嘩したりと問題児でした。
その中で、学生の時の思考方式から
どうやって転換するかが一番大きな壁だったと思います。

例えば、学生ですとより高いGPAを取ったり、
いい学会で論文を発表したりといったことが求められます。
しかも皆同じ専門なので、説明されても難しくてわからないとなれば、
それは分からない方が悪いという考え方があったと思います。

一方で会社に入るといろんな専門性があって、得意不得意も全然違う人達が居ます。
私からいきなり営業の方にアルゴリズムのことを言っても、
理解していただくのは困難です。
なので、私からすればよかれと思って言ったことも、
必ずしも求められているものではないし、
正しいと思ってる主張も必ずしも受け入れてもらえる訳ではないので、
それをどう捉えるかが一番大きかったと思います。

ーーちなみにそれを感じてどう乗り越えたんですか?

そもそも私がやりたかったことは、
私の考えたアルゴリズムや作ったソフトウェアをユーザーに届けて、
それが実際に役に立つのか確認すること。
持っていた仮説が正しいかどうか検証したいと思っていました。
なので、まずそこにたどり着かないと話になりませんでした。

そのためには、
学生時代のように自分が 一番賢いと思ってもらったり、私の言うとおりに動いてもらうことが一番効率の良いやり方ではないことを認める必要がありました。
そして、ユーザーに自分の作ったものを届けるまでに
何をするのが正しいのかを考え直していくと、
周りへの接し方は変わりますし、仕事がやり易くなりました。

ーー相手の役に立たないと意味がないっていうところは、最近仕事をする中で感じているので心に刺さりました。

そうですね。
さらに言うと、相手の役に立つのもそうですが、
会社として最終的にはユーザーバリューを提供することも大切になってきます。
ですが、特定の職種や技術が大切かどうかではなく、
本当に目標達成しようとした際に
それぞれがどんな役割を発揮するのかを考えることが重要だと思います。

5)マネージャーになるのかプレイヤーになるのか

ーー入社した時は、マネージャーになって組織を作っていこうとは考えていなかったと思いますが、そこに興味を持ったのはどのタイミングだったのでしょうか。

私の場合、
プレイヤーでいるか、マネージャーでいるかはあくまで手段だと思っています。

例え話として、「ここに住んでみたいな」と思った物件に
1週間くらいですぐに引っ越せてしまう世界を目指しているとしましょう。
これはとても1人では成し遂げられません。
もちろん私のできる事はありますが、
非常に大きい目標を実現しようとすると1人の力には限りがあります。

人によって、スペシャリストとして入ってピンポイントで自分の専門性を発揮する、
というやり方もあると思います。
ただそれだと、他の誰かがチームや環境を一定整ってくれるのを待つ必要があります。

しかし、私は気が短くて、それを待っていられません。
その期間を待つくらいだったら自分で作った方が早いと思いますし、
一人でできないことはチームを組んで、他人の力を借りましょうというところを含めて、
自分でやればより大きな力を出せるんじゃないかなと思っています。

つまり、先のやりたいことを考えてたら、
マネージャーになった方が良さそうな気がするので、やってみましょう
みたいな感じでやっています。

ーーそうですよね、入社の目的がそもそも自分で何でも作りたいとなると、確かにマネージャーになった方が何でも自分で作れるようになりますよね。

6)李さんにとっての「仕事」とは?

ーープライベートもある中で、李さんの中で「仕事」はどういう位置付けなんですか?

私の場合、仕事はやっていて楽しいものですし、そこから満足感も得られているので、
半分趣味みたいなものだと思っています。
ですから、
私はそんなに仕事とプライベートは絶対にきっちり分けたいとかそう言う訳ではなく、
ワークライフバランスを保てればいいのかなと思っています。

ーープライベートと仕事の境界線があるわけではなく、趣味の中の一つみたいな感じなんですかね。

感覚的にはそれに近いですね。ただ、給与は出ないと困りますが笑。

7)データは世界を変えるのか?

ーー李さんの様々なインタビューを拝見させていただいた中で「データが世界を変える」という風におっしゃられていたと思うんですが、本当に変えられるのかお話を聞かせていただきたいです。

私はデータは世界を変えると思います。
なんなら今までも変えてきたと思っています。

私は小さい頃にちょうどインターネットが流行り始めた世代ですが、
インターネットが流行るより前の人たちの考え方と、
それ以降の人たちの考え方は大きく変わっていると思います。
他にも、何かあればすぐGoogleで検索する人もいれば、
今の世代の人だとGoogleではなくてソーシャルメディアで検索したり、
自分で本を読むよりYouTubeで動画を探してみたりと
知識を得る手段は変わり続けています。

その手段を提供する立場の人々が、どんなデータを収集して、
そのデータをどう扱うかで社会、ひいては世界は大きく変わると私は思います 。

ーー個人的にデータは透明性があるなと思っていましたが、今の話を聞いてどう加工してどう出すかという過程があると考えると、意外とそんなに透明じゃないのかと思ったんですがどうお考えですか。

昔で言うと、
テレビで放送される内容は全部正しいと多くの人が思っている時代もあったように、
メディアがどういう情報を提供するかによって
世間の人々の考えや動きは大きく変わってくると思います。

今は、テレビの役割を担っているのはプラットフォーマーだと思いますが、
その役目を担う人々がどういうデータを使い、どうユーザーに返すかによって
多くの人は良い方向にも悪い方向にも行けるわけです。

一見客観的に見えるAI・機械学習でも、
アルゴリズムやデータを選定するのがデータサイエンティストである以上、
その結果は人間の主観にかなり影響されます。
なので、意外とありのままのデータが出てくることはないし
データサイエンティストが取り扱う前の「元データ」も、
他の誰かのバイアスがかかっているので、
それを本当にいい方向で使うにはどうすればいいかは
きちんと考えなければいけない課題だなと思います。

ーーその通りだなと思ったんですが、李さんが世界を変えられるデータを扱うために意識されているポイントはありますか? 

データ収集する際に、
今このデータは何のために使おうとしてるかを意識しなければならないと思いますし、
そのデータを使って何かを社会に出す際に
世界を変えているという自覚を持ちながらやらなければいけないと思います。

部屋探しの場合であれば、大きい買い物ですし、
人の人生に関わるようなイベントですので、
ユーザーにとっていいものかどうか常に考えながら
プロダクトを作らなければいけないと思っています。

8)李さん流の壁の超え方

ーー職域や文化などの住み分けがあって、それを超えるのは難しいと思うんですけど、李さんはどのようにして壁を超えてきましたか。

結局、この壁を超えないと自分の行きたい場所に行けないならば、
どうやって超えるか考えるだけの簡単なお仕事になるわけです。
全ての壁に対して絶対超えていかなきゃいけない訳ではないと思いますが、
正しく目標を定め、
その目標に対して乗り越えるべき壁だと思えば頑張れるのかなと思います。

例えば、 RPGゲームだとしたら最終的にはボスを倒さなければいけません。
そのためには仲間を募集して、
みんなそれぞれレベルアップしていくことが一番の近道だと思います。
ただ、単なるレベル上げが楽しいと思う人はなかなかいないと思います。

一方、敵を倒すことは楽しいので、その為のレベルアップは必要ですし、
倒した後に「よく頑張ったな」という達成感を感じる時もあると思います。

なので、実際に壁を超えるためにやるタスクは
必ずしも楽しいとは限らないかもしれませんが、
乗り越えた時に達成感を得られることを楽しみに頑張っています。

9)今後どんなチャレンジをしたいか

ーー李さんが今後どんなチャレンジがしたいかをお聞きしたいです。

色々ありすぎて難しいですけど、マネージャーの話が出てきたので
その方面でチャレンジしたいことを一個挙げさせていただきます。

中長期的な未来を見据えると、
データサイエンティストやエンジニアはニーズがある職種といえるでしょう。
多くの優秀なデータサイエンティストにとって
仕事をしたいと思える環境をリクルートで作りたいし、
その人たちが自分の価値を発揮できるような仕事を作っていきたいと思っています。

ーーそこにはどういうモチベーションがあるんですか?

先ほど言った例え話のように、
一週間で引っ越せるような世界を仮に作るとするなら、
たくさん優秀な人たちがいないと無理だと思います。
なので、その優秀な人たちにどうすれば参画してもらえるかな
っていうところを考えなきゃいけないです。

ーーやはり目標があって、そこまでの道筋の中の1つに優秀な人材を確保するというのがあるんですね。

ーーやはり、李さんは圧倒的にカスタマー意識がすごく高く、目標までの道筋を楽しめるからこそ、壁とかもなく進められてるのかと感じました。

実際は沢山壁にぶつかって何回も何回も挑むこともありました。
でもやはりその先の世界が見たかったので頑張れたというのもあります。

ーーちゃんと壁にぶつかりながらも少しずつ解決していて、その先には大きな未来を描いているところがとても魅力的で素敵だなと思いました。

ーー本日はありがとうございました。