Geo-Business BLOG

位置情報データ&IDログの活用におけるOOH効果検証の可能性

今回は2022年度の「&DATA EXPO」のDAY3講演から
株式会社博報堂DYアウトドア様より
「位置情報データ&IDログの活用におけるOOH(1*)効果検証の可能性」の講演レポートです。

効果的なメディアプランニングが重視される昨今における、
位置情報データとIDログデータの活用可能性に注目です!!!

(1*) 「Out Of Home」広告の略。主に野外に設置される広告を指す言葉(ex.街頭ビジョンや街頭イベント、看板やラッピングカーなど)。

==========講演者==========
株式会社博報堂DYアウトドア
デジタルプロデュース部 プラナー
秦 雄治様(写真右)
佐々木 真実様(写真左)
*所属名、肩書きは当時のものです。
=========================

1)はじめに

まずはじめに、前提となる現状についてお話しさせていただきます。

我々広告会社に限らず、広告のキャンペーンの実施において、
効果を可視化し評価することがクライアントから求められていると思います。
また、コロナ禍による生活者を取り巻く環境の変化を受けて、
以前よりシビアに効果や効率を見られている現状があります。
そんな中、デジタルやテレビの効果の可視化が進んで、
プランの効率化が可能となり、
クライアントも意思決定しやすくなっているという現状に対して、
OOHの効果検証は方法としてまだ確立していないのが実情です。

具体的な課題を考えていく上で、
クライアントの広告出稿の目的を整理しました(上の画像)。

こちらに記載しているKPI(2*)がすべてではありませんが、
主にご覧の項目をメディアのKPIとすることが多いです。
そして各KPIにおけるプランニング指標や評価ポイントに沿った効果検証の設計が求められています。

上段は、広告を見たか、興味を持ったか、
あるいは買いたいと思ったかなどのブランドリフト(3*)の効果についてです。
下段は検索したか、サイトにアクセスしたか、
または来店したかの行動変容の効果を見る指標になっています。

(2*)重要業績評価指数と言われ、企業や組織の目的達成のために行う、日々の活動の具体的行動指標のこと。

(3*)ブランディング広告の効果を調べる指標の一つ。広告出稿後にアンケートなどを行って調査結果を収集し、広告に接触したグループと未接触のグループを比較して、企業やブランドの認知度や好感度、購買意欲などに向上が見られたかを測定するもの。

KPIごとに、それぞれの手法で、各メディアの効果検証を実施する中で、
上の画像のような方法でOOHの効果を検証することが可能だと考えています。
今回はこれから、下段の効果を検証した事例を中心にご紹介していきます。

効果検証を実施する上での狙いは主に2つと考えております。

①:OOH市場拡大
②:OOHの効果を定量的に明らかにすることで、テレビ&デジタルというプランに加えてOOHや、テレビ&OOHなど、キャンペーンの目的に沿った最適なプランニングを実施していくというところです。

今回は、デジタルメディアに対する「アシスト効果」と「来店率向上」の効果の
2つについて事例とともにご説明させていただきます。

2)分析概要

それでは具体的に事例を紹介させていただきます。

まず、最初にご紹介させていただく事例は
ブログウォッチャー社の位置情報データを用いて
Googleのデータクリーンルーム(4*)であるAds Data Hub(以下「ADH」)や、
博報堂DYグループ(以下「HDYグループ」)のオリジナルDMP(5*)である
AudienceOneを連携し分析を実施いたしました。

画像左の図にあるように、
位置情報によって検出されたOOH媒体付近にいたユーザーを推定接触者として捉えて、
位置情報データに紐づく広告IDも合わせて抽出します。
そして、画像右の図にあるように、
各ソリューションと広告IDによる連携をすることで、
OOHとYouTubeのクロスデバイス分析を行ったり、
ウェブサイト流入分析を行ったりしました。

(4*)安全に保護された環境で、個人識別情報データを除去・加工し、様々なデータ分析に利用できるようにするもの

(5*)「データマネジメントプラットフォーム」の略。インターネット上に蓄積された様々な情報データを管理するためのプラットフォームのこと

Ads Data Hubとは?

事例紹介の前に簡単に連携したソリューションの説明をさせていただきます。

ADHとは、Googleが提供するデータクリーンルームで、
条件付きでGoogleデータを用いて分析することが可能なソリューションです。
ブログウォッチャー社の位置情報データとIDベースで突合することで、
Google内に蓄積されているデモグラフィックデータ(6*)や、
関心情報などをOOHの推定接触者情報に紐付けすることが可能になります。

(6*)年齢、性別、居住地、家族構成、職業など、人口統計学的なデータのこと

AudienceOneとは?

続いてAudienceOneのご紹介です。

AudienceOneとは
ファーストパーティーデータ(7*)を含むマーケティングデータを
統合管理、活用するための、博報堂DYグループのオリジナルDMPです。
こちらでは、ブラウザとアプリで分断されるユーザーを
推定でマッチングする技術と、位置情報データを組み合わせることで、
OOH接触者の来訪有無などを分析する目的で今回活用しています。

(7*)自社のWebサイトで収集したユーザーの情報などをさす言葉。

3)事例紹介

デジタルメディアに対するOOHのアシスト効果検証

それではまず、デジタルメディアに対するOOHのアシスト効果を検証した事例を
2つご紹介させていただきます。

こちらでは、YouTubeのデジタルメディアと一緒にOOHを出稿することで、
OOH単体の効果だけでなく
デジタルメディア上での視聴態度(視聴完了率など)が向上するといった効果が見込まれています。 

具体的にはOOHに接触することで、YouTube上で広告動画の視聴完了率が向上し、
広告動画のスキップ率が低下するなど、
ブランドリフト調査においても
効果がより最大化するというアシスト効果について説明させていただきます。

①エンタメ性の高い商材での事例

こちらはキャンペーンの初期にOOHのデジタルサイネージ媒体(6*)を利用し、
YouTubeでも同様に告知を行った際に、
YouTubeの視聴態度が向上したという結果を検証いたしました。

画像左の図ではTrue View(8*)の視聴完了率が「OOH非接触者」に比べて「OOH接触者」の方が高い結果を示しており、
画像右の図では、「OOH接触者」の方がスキップ率が低くなったという結果を示しています。
こちらはエンタメ寄りの商材という特性もあって、
ターゲットと親和性の高いエリアにOOHを出稿することで、
キャンペーンの初期に動画コンテンツへの興味関心をより引き上げることができ、
結果的にデジタルメディアの効果も高めることができたと捉えています。
そのため、このような商材の場合は
キャンペーン立ち上げの時期に合わせてOOHの出稿も推奨できると考えられます。

②BtoB系の商材での事例

こちらのキャンペーンでは、
テレビCMやテレビデジタル広告を実施することにより
認知率をしっかり向上させた上でOOHを出稿するというプランを実施いたしました。

検証の結果、
YouTubeの視聴態度と広告主のホームページへの来訪率の項目において
差分がしっかりと見えました。
画像左の図では、True Viewのスキップが「OOH接触者」の方が「OOH非接触者」に比べて低い結果となり、
画像右の図では、クライアントのホームページへの来訪率において、
「OOH接触者」の方が「OOH非接触者」に比べて高い結果になったことを示しています。

このように他のメディアで認知の土台を形成した後、OOHを出稿することで
Web動画のスキップ率が低くなったり、
サイトの来訪率が向上したということがわかりました。
そのため、ブランディング目的のようなキャンペーンでは、
他メディアと組み合わせながらOOHを出稿することで、
より効果を高められるのではないかと考えています。

(8*)YouTubeなどで動画を見る際に、途中で挿入される動画広告のこと。

OOHによる来店率の検証

次の事例では、来店率の検証事例をお話しさせていただきます。

来店率の検証という事例は増えてきているとは思いますが、
今回の事例においては
OOHの接触者と非接触者を意識ベースではなく、ログベースで捉え、
位置情報に基づいた情報を活用しながら実際の来店率を検証したものになっています。

こちらは店舗送客系のキャンペーンで実施し、
店舗付近のOOH媒体に出稿することによって、来店率が向上するかを検証いたしました。

結果ですが、
画像左の図ですと「OOH非接触者」に比べて、「OOH接触者」の方が来店率が増加しました。
画像右の図は接触頻度別に比較したものになっており、
OOHに1回接触した者よりも7回以上接触したターゲットがより来店率が高まったという結果が確認できました。
なので、店舗送客を目的とする場合は、
ターゲットのリーチを最大化することと、頻度を7回程度は獲得することが重要だと思っています。

まとめ

まとめると、位置情報データに加えて広告IDを活用することで

・OOHと他メディアの接触状況
・オンライン上の態度変容効果
・OOH接触者の来店率向上効果や頻度別の行動変容効果

を検証し、次のプランニングへ示唆を導き出すことができました。

4)事例から学べること

紹介した事例の中から、3つの観点で学びを共有したいと思います。

OOHの効果

まず1つ目のOOHの効果については大きく3点あります。

①商材の性質によってOOHを投下する時期を見極める必要性

当たり前のことかもしれませんが、
先ほどの事例で言えばOOHを出稿するタイミングは

・エンタメ系(ゲームや映画などの娯楽系)であればキャンペーンの立ち上げの時期
・ブランディングであれば認知の土台を形成した後

など、他のメディアプランニングの状況や、商材の性質によって、
OOHを出稿する時期を見極めることが効果を最大化するために必要なことだと思っております。

②OHHに接触する回数を重ねることは生活者に好影響を与える

先ほどの店舗送客系キャンペーンの事例において、
OOHに7回以上接触している方が来店率が高まるという結果でした。
ここから分かるように、何回も接触させることで効果が増すこともありますし、
逆に強制視認性の高い状態でテレビやデジタルを10回接触させるよりも、
最後の3回はOOHで受動視認性が高い状態で不快感なく接触させる方が、
より好感度が上がるとの結果が出ています。
そのため、接触頻度をOOHで重ねることは有意義であるという学びを得ました。

③KPIによってOOHによる効果が現れるタイミングが異なる

例えば先ほどのサイト来訪であったり、YouTubeの動画のスキップ率であったり、
それぞれOOHによる効果のタイミングは
データとしても違うことがわかっております。
OOH接触後すぐに出るものもあれば、
2週間程度残存効果を持たせた状態で高い水準を保つような効果もあります。
狙うKPIによってOOHの出稿タイミングを正確に設計する必要があると考えています。

プランニング/検証進行

こちらでは学びが大きく2つあります。

①IDログベースの効果をより理解するために、ブランドリフト調査も同時にする方が望ましい

今までであれば単体でIDログベースの効果検証であったり、
単体でブランドリフト調査をすることがあったかもしれません。
しかし、それぞれ単体で広告主に報告をした際には、
その確からしさを問われることがよくありました。

今回の事例の中で
IDログベースの効果検証とブランドリフト調査を同時に行っているものがありまして、
例えばIDログベースでは20代男性の効果がより出ており、
一方でブランドリフト調査でも20代男性を見てみると同じように上昇しており、
相互に補完し合う形で広告主に効果をご報告することができました。
そのお陰で、より納得感も増すので、
それぞれ単体でやるだけではなくて同時に行う方が望ましいという学びを得ました。

②より多くのIDを獲得できる抽出方法が必要になる

先ほどGoogleのADHなどを使っていると申し上げましたが、
サンプル数があまり少ないと
プライバシーポリシーによって分析ができないことも起きますので、
より多くのID数を獲得する必要があります。
他にも広告主からコンバージョンデータ(9*)をいただいて、
それに対してIDを突合した際に、突合数がかなり少ないという状況で
結果的に確からしさを担保できないこともあったりするので、
より多くのID数を獲得できるような抽出方法を
どんどん模索していく必要があるなと学んでおります。

今回の事例に関してはブログウォッチャー社と連携をさせていただいたため、
多大なIDをいただくことができ、無事進行することができました。

(9*)サイト上などで獲得できる最終的な成果のデータ

IDベースでの検証の重要性

こちらの学びは大きく3つあります。

①ブランドリフト調査よりIDベースで効果検証を行った方がOOHの接触有無の精度は高くなる

基本的にブランドリフト調査でOOHの接触を聞く際には、
クリエイティブを見せてどこで接触したか覚えているかを聞きます。
しかし、それでは勘違いであったり、錯覚が起きやすいのも実態です。
そのため、接触の有無の精度に関してはIDベースの方が高いと思っております。

②ID形式を揃えることでクロスメディアでの分析が可能

今回、モバイル広告IDベースでOOHに関してはIDを取得しております。
一方で、テレビであったり、サイト来訪、デジタル広告の接触を調べる際には、
それぞれのIDで取得することが多いので、
そのIDをモバイル広告IDベースに変換し、合わせることで初めてクロスメディアで分析することができます。
なので、ID形式を揃えるということが重要だと思っております。

加えまして、モバイル広告IDに関しては
2台のスマートフォンを持っている方もいるかもしれませんが、
基本1台のスマートフォンに対して1IDを付与している形ですので、
比較的ユニーク性の高いIDになっていると思っています。
そして、そのIDに対してサイト来訪であったり、
YouTubeの視聴態度や、ゆくゆくはテレビの視聴態度を合わせていくことによって、
1人のIDがどのような形で行動したのか、接触をしたのかというのがわかります。
なので、そういった意味でも
精度の高い効果検証手法としての選択肢はどんどん広がっていると思っております。

5)課題

今まで挙げてきた学び以外に、課題が4つ浮き彫りとなりました。

評価対象となる指標の獲得

OOHがどのKPIにより効くのかが厳密にはよくわかっていないかと思います。

肌感として、このメディアをこのタイミングで打つとこういった効果が出るのではないか、
という知見や予測をもとに皆さんブランディングをされていると思います。
ですが、このOOHをこのタイミングでやるとこれぐらい数値が上がって、このKPIに効く、
のようなところまでは厳密には分かっていません。

そして、我々が先ほど創出した事例は、
KPIがどこに効くのかを分析するにあたって事例を創出しましたが、
1つ1つの事例を1つの会社で作っていくのにはコストがかなりかかるので、
業界全体で効果検証の事例を増やし、
それぞれの結果を共有し合うような状況が必要だと思っております。
そうすることで、他社の事例を鑑みながら自分たちで実施する際には、
より良い仮説検証ができるのではないかと思っております。

評価対象となる数値の入手(可視化)

結果データを第三者として獲得するのが難しい点は課題として挙げられます。

例えば、クライアントの商品の購買データであったり、
クライアントのコンテンツが視聴されたかという視聴データのように、
クライアントのコンバージョンデータを第三者として獲得するのは難しいと思っています。
そのため、特定先からのコンバージョンデータの提供協力が不可欠です。

一方でそういったデータをいただいたとしても、
データ量がそもそも確保できなかったり、突合の効率が悪くてコストがかかりすぎてしまう、
もしくは、データクリーンルームのスペックが低くてあまり情報としていいものが得られなかった、ということもありますので、
分析の技術自体の向上や効率自体の向上というところも急務かと思っております。

評価対象となるデータの分析

OOHの効果以外の外部要因が多すぎるため、
時期やエリア比較では効果を読み辛い部分もあります。
なので、どのメディアプランニングにも入っているテレビやデジタルの効果もうまく加味しながら、OOH単体の効果を見ていく必要があります。
そのためには、クロスメディアの分析が必要になってきますし、
それをするにあたってはIDベースで行うことによって、
しっかり読み解けるのではないかと思っております。

6)今後の展望

以上を踏まえまして
博報堂DYアウトドアの今後の展望として、取り組んでいきたいところを最後にご説明します。

①TVやデジタルを横断したクロスメディア分析へのトライ

OOH単体でプランニングされることがあまり多くないと考えた時に、
テレビとデジタルとをいかに横断してメディア分析できるかというところが鍵になってくると思っております。

②OOH接触者ベースでBLS(9*)を商品化

先ほど申し上げた通り
アンケートベースで、このメディアに接触したかどうかというだけでは精度がまだまだ低いので
OOHに実際に接触したとされるところをIDベースで取ってきて、
その人たちに対してブランドリフト調査をかけていくような商品を作っていければなと思っております。

③広告主から提供されるCVデータと連携した事例創出

広告主のKPIに対して
メディアがどういった効果をもたらしたのかを可視化するためには、
広告主のデータと紐付ける必要があると思っています。
そういった広告主からのコンバージョンデータをいかに提供頂き、
メディアの分析を行っていくのかというところも
今後注力して取り組んでいきたいと思っております。

(*9)BLSとは「ブランドリフトサーベイ」の略称。WEBアンケートなどを通して、広告に接触したユーザーと接触していないユーザーからのデータを集計し、接触したユーザーのブランド認知や購買意向の上昇を測ることを指す。