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「リアルメタバース」が創り出す新たなライフスタイルの可能性 〜STYLY × 位置情報データの活用〜

今回は2022年度の「&DATA EXPO」のDAY3講演から
株式会社Psychic VR Lab様とブログウォッチャーで協働させていただいた
「リアルメタバースが創り出す新たなライフスタイルの可能性〜STYLY×位置情報データの活用〜」の講演レポートです。
位置情報×XRの可能性に目が離せません!!

株式会社Psychic VR Lab(以下、PVL)様は、
2016年に設立した会社で、「STYLY」というサービスを展開しています。
「人類の超能力を解放する」というミッションを掲げており、
XR(1*)を主軸としたテクノロジーにより、
人の空間的・肉体的・精神的・物理的な制約を取り除き、
人や企業の想像する力、クリエイティビティーを解放することを目指しています。

(1*) VR(仮想現実)・AR(拡張現実)・MR(複合現実)の総称

==========講演者==========
株式会社Psychic VR Lab
Sales Marketing General Manager
井倉 北斗様(写真左)

株式会社ブログウォッチャー
プロファイルパスポート事業部 
ソリューションセールスグルーム 2チーム リーダー
石川隆寛(写真右)
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1)リアルメタバースとは?

メタバースとは一般的に、
コンピュータの中に構築された、3次元の仮想空間(バーチャル空間)やそのサービスを指します。
メタバースと言われればVR(仮想現実)のことを思い浮かべることが多いと思いますが、
Psychic VR Labでは、AR(拡張現実)やMR(複合現実)を使い、
現実と仮想空間を混ぜ合わせたMR(Mixed Rearity、複合現実)を実現することを主にしています。
これが、リアルメタバースであり、
アニメの攻殻機動隊のようにメガネデバイスをかけて、
現実空間では何もない場所に、広告が出てくる、ようなものを想像してもらえればわかりやすいと思います。

2030年以降必ずやってくる現実と仮想空間が重なり合う未来に対して、
逆算でアプローチをかけていくようなスタンスでサービスを開発しています。

2)メタバースマーケットはどうなっているのか?

マーケットの現状

メタバースが注目され始めていますが、
実は VRのマーケットよりも
ARマーケットの方がたくさんの市場が形成されるだろうという予測が出ています。

また、最近では、ヘッドマウントディスプレイ(2*)を被って、経済圏を作るという話が出ていますが、
下の図でもわかるようにEC(3*)や、デジタルの流通額を見ていくと、
実は全体の流通金額の内、EC化率(オンラインでの買い物をする金額)は10%にも達していません。

そのため、VRを使ったデジタルだけで解決できるものも大切ですが、
それより大切なのがリアル空間での人の流れや、
お金の流れを忘れないことだと思います。
なので、VRではなく、ARやMRを使って人の流れやお金の流れを重視したり、
人流を作ることをやっています。

マーケットの変化

最近、メタバースやARがやりたいという、
手段が目的化しているようなご相談を多くいただきます。
そもそも、実施する前に考えなくてはいけないのが
マーケットがどういう風に変化しているかです。

 

顧客がインターネットとスマートフォンを利用することによって
情報がもの凄いスピードで交換されるようになりました。
そうなった時に、お客さんが得られる情報量が沢山あるので、
お客さんのリテラシーが向上したり、
情報がたくさん集められようになるので選ぶ理由がよりシビアになってきて、
若い世代ほどそれが顕著に現れてるようになっています。

それによって、マーケットがどのように変化したかというと、
インフルエンサーと呼ばれる個人が影響力を持つなど、
企業側も顧客のタッチポイント(4*)を増やすために
情報を発信しなければならなくなりました。
その影響で、企業が施策をやる毎に
他の人や企業が簡単に真似をされるようになってしまったため、
どのように差別化するか、
どのようにポジションを確立したり自分のブランディングをするのか
が難しくなってきています。

(2*)頭部装着型ディスプレイ
(3*)電子商取引

3)「STYLY」とは?

STYLYの目指す世界観

そもそも僕たちがどういった世界観を目指しているのかを動画でお見せします。

動画はこちら

↑こちらが我々が提供しているSTYLYというプラットフォームを使ったデモコンテンツの映像です。

国交省のPLATEAU(プラトー)と言われる国土交通省のプロジェクトで、
3D都市空間データを無料で配布しています。
それを活用して、
いわゆる下敷きのような形で真っ白な3Dデータにコンテンツを配置することで、
どういうものが見えるかを実際に作っています。

こちらは、渋谷のスクランブル交差点です。
メガネデバイスを掛けてスクランブル交差点に行くと実際に今この映像が見れます。

ご覧いただくとわかるように、建物の裏側にコンテンツが配置されたり、
渋谷の特定の建物の前にコンテンツを出すなどの設定は、
一般のユーザーでも簡単に作ることができます。
上の画像の中に89%という数字が入っていますが、
STYLY自体がUnity(4*)でできてるのでAPI(5*)で情報を持ってきて、
リアルタイムで表示することができています。
なので、いわゆる食べログの情報や、
食事系のお店の情報を掲載することも可能です。

しかし、実際にやらない理由としては、
みんなスマートフォン持って、それを街にかざしながら歩くという習慣もないですし、
一番はそもそも歩きスマホの危険があるので、実施していません。
実施する際は、特定の場所、特定の条件のもと、実証実験を行っています。

そして今、その空間の6都市への対応が完了しています。
一般の人たちが触れる状態ではないのですが、
随時開放して一般のユーザーでもSTYLYの空間にコンテンツを配置したりできるようになっていく予定です。(2023年1月現在、一般公開済みです)

(4*)ゲームエンジンの一種
(5*)ソフトウェアやアプリケーションなどの一部を外部に向けて公開することにより、第三者が開発したソフトウェアと機能を共有できるようにしてくれるもの

STYLYの機能

動画はこちら

次にSTYLYの機能について紹介をしていきます。

STYLYの機能は大きく分けてスタジオとギャラリーという2つの機能があります。

まず、スタジオ機能はWebのブラウザで動くもので、
作られた3Dモデルをアップロードして配置、そして配信することが簡単にできます。
なので、今お持ちの3Dデータを流用して、コンテンツを作ることができ、
それをワンクリックでYouTube の動画公開と同じく公開することで
全世界に同時配信することができます。 

そして、STYLYのスタジオで作り、配信したものを
ギャラリーという機能で観るという形になっています。

また、サービスの強みとして、
現状あるデータをそのまま流用してあらゆるデータを取り込むことができるところや、
現状出ている主要のデバイス(ヘッドマウントディスプレイ、PCブラウザ、スマホ)に全て対応してるので、
デバイスに依存がなく利用ができるようになっています。 

4)ロケーションコンテンツ・非ロケーションコンテンツ

ロケーションコンテンツ

ARやVRのコンテンツにおいて、
ロケーションコンテンツと非ロケーションコンテンツというものがあります。

ロケーションコンテンツは、
その場所をスキャンしたり、その場所に合わせたコンテンツを作ることで、
より存在感を高める効果があります。
そこでリアルに行われてる感(プレゼンス)を高めることで、体験価値が上がります。

例えば、レッドカーペットや、後ろの階段は現実世界のものなんですけど、
その周りの水の演出や、
奥から出てきたモデルさんは全てARのコンテンツになっています。

これは、新宿の小田急で実施した案件で、
一般の方がここに来るとコンテンツが見れるようになっています。
これがいわゆるロケーションコンテンツです。

非ロケーションコンテンツ

一方で、非ロケーションコンテンツは、
SNSで誰でも投稿できるような、場所を問わないようなコンテンツで、
STYLYでも作ることができます。

非ロケーションコンテンツは、
場所に紐づいていないので、どこでやっても同じコンテンツが楽しめます。
なので、使い方によっては、「どこかの特定の場所に集めたい」だったり、
「SNS上でこう混ぜ合わせたい」という用途によって
コンテンツの作り方を変えれば作品の可能性はいくらでもあると思っています。

5)事例紹介

STYLY×PARCO

協業させていただいた例として、渋谷のPARCO様がございます。
PARCO様のエスカレーターの吹き抜けの部分がデッドスペースになっているので、
その場所を活用して、アート展示空間に変える試みを実施しました。

iPadやスマートフォン、またはVRのゴーグルをかけると、
上の画像のような世界が見れるというものです。

しかし、これをやって何なるんだと思う方もいると思いますが、
3年から5年の期間でブランディングをして、
ユーザーの認知を獲得していくためのもので、
「パルコに行けばイケてるコンテンツがあるよね」というイメージを覚えてもらえるような、
長期的な目線での取り組みの一環になっております。

STYLY×熊本県様(マチナカxRミュージアム

他のロケーション関連の事例のご紹介で、熊本で実施した取り組みがあります。 

熊本の商店街や広場を丸々スキャンして、スタンプラリーで各所を回ってもらい、
回った先でいろんなコンテンツを用意するという取組を行なっています。

例えば、くまモンのパレードが商店街で見れたり 

 お城に行くとXRのライブが見れたり

一部ではその場所全てがXR水族館になったり。

様々な取り組みの中で1つ面白いのが、
クリエイティブスポットのアート展示空間でした。

これは、熊本の小学生に額縁の中に入れる絵を書いてもらい、
それを取り込んで広場にXRで展示するってことをやっています。
これは人の流れを作る目的があって、
子供達が描いた絵は、子供以外にもその子のご家族、友達も見にきてくれました。



そういった流れで、
広場に家族だったり、周りの住民の人たちが集まってくるような、
実際に人の流れができるような施策をソリューションとして提供しています。

渋谷空想水族館

東急様との案件で、
SHIBUYA CASTの価値付け(ブランディング)をどう高めていくかという施策の一環で取り組んでいます。

これもロケーションコンテンツでして、
実際にSHIBUYA CASTを全てスキャンして、
そこの場所に合わせたコンテンツを作っています。
建物の裏側からクジラが出てきたり、扉の向こうからギミックが出てきたり、
実際のその場所に行かないと体験できないコンテンツで、
その場所の価値を上げる取り組みを行ってます。 

渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

次は、渋谷の5Gプロジェクトの一環で作成したコンテンツです。



STYLYがUnityのゲームエンジンでできているので、
いろんな ギミックをつけることができます。
なので、スライダーで2020年の東京オリンピックがある時の渋谷駅と、
1964年の東京オリンピックがあった時の渋谷駅を実際に見比べることができるようになっています。

ARとかVRって結構若い人たちしかやらないかと思われがちですが、
この案件においては、40~50代の方々が最も多く体験してもらっており、
コンテンツを変えることでユーザーターゲットを変えることができることが分かった良い案件でした。

商店街のメタバース化

そして、今ブログウォッチャーの石川さんと一緒にやっている、
岡山の西奉還町商店街での案件です。

これは実際に商店街にXRのアートコンテンツを展示して、
実際に人の流れがどう変わるかを実験的にデータを取得・分析してみようというものです。

これも見てもらうと分かるように、
商店街の中を全部スキャンして実際にそこに配置しており、
実際にここの商店街に来ないと見れないというものになっています。
実際にアートコンテンツを置くことによって
人の流れがどう変わったのかをもっと細かく取っていくことで、
ARだったりVRのコンテンツが人の流れにどう影響するのかが、
今後も、よりわかってくると思います。

ここでの分析の結果をこれから石川さんにお話を伺ってみようと思います。

6)ブログウォッチャーとは?

基本情報

商店街の分析をする前に簡単にブログウォッチャーの紹介をいたします。

ブログウォッチャーという会社は、
位置情報のデータを大量に持っており、
それをいろいろな形で活用している会社です。

主に

①位置情報のデータを貯める(SDK)
②位置情報データを分析・活用する(DMP)
③位置情報データを広告に活用する(AD)

という3つのプロダクトに分かれています。

先ほど、井倉さんと話している中で1番ポイントになるだろう思ったところは、
ARのコンテンツやMRのコンテンツの価値の最大化だったり、
いかにお客さんを集客して、その方が実際にどういう風に楽しんだか、
といったことをしっかりクライアントに返すことだと感じました。

ブログウォッチャーは本当に様々なアプリから情報提供をいただいており、
月間2500万端末のデータを保有しているため、データの偏りが少なくなっています。

こういった沢山のデータを使いながら、
どうすれば価値をより大きくできるかを日々考えています。

データの集め方

次に、ブログウォッチャーがどのようにデータを集めているかを紹介します。

その方法は基本的に2つあります。
1つ目は、各アプリの設定に応じて、一定の頻度で取得する定常的な取得方法。
2つ目は、狙った場所で取得するというものがあります。

STYLYとの相性で言うと、
狙った場所・ある程度決めた場所で情報を取ることが、取組の中では多いです。
また、イベントの中で人がどう動いたかの情報も取れますので、
例えばどのコンテンツがすごい人気だったかを
アプリのデータと位置情報のデータとを合わせることで
見ることができるようになっています。

7)事例分析



それでは、先程紹介してもらった西奉還町商店街で
実際に取れたデータを分析してみました。
今回は簡単に 3つご紹介できればと思っております。

まず、QRコードの設置イメージについてです。

こちらは商店街の方と井倉さんが話し合い、
画像上に赤くついている3箇所にQRコードを貼っていただいて、
各場所の間でARのコンテンツを配信していただきました。

次にこのマップは、赤くなっているところが商店街のエリアで、
実際どのエリアから人が来てるかを表したARのヒートマップになっています。
今回、7月の1ヶ月間でARコンテンツを配信してもらったんですが、
コンテンツを配信していない6月に比べ、やはり7月の方が来訪者が多かったです。

また、全体を見ると、やはり商店街だけではなく近隣の周遊も見られるので、
今後は商店街だけというよりは、
商店街を含む他のエリアも巻き込んだ形でコンテンツ配信をしていくことができれば、
より多くの集客ができるのではないかと感じました。

継続して計測できるという点が位置情報の強みでもありますので、
次回以降実施していく際も、
前回データとの比較ができるのが良いところだと思います。

実際のログを調べたところ、QRコードが置いてある緑の円をみてみると、
下の方(7月)が明らかに訪れてる人が増えてると言えます(位置情報の点が増えている=来訪者が増えてる)。
ARのイベントの場所の集客が増えてるということが、この図だけでも分かるので、
実施した場所であったりコンテンツが、
来訪に与えた影響はすごい大きいのではないかと推測できます。
実際この取組を7月にやって、お仕舞いとするのではなく、
例えば次回9月もやりますとなった時に、
同様の分析をした中でログはどのように変わったか、
場所を変えても一緒になったのか、なども分析できると思ってますので、
ぜひ継続的に実施できればと考えています。

この表は、実際に取れた数値の表です。
さっきのエリアで区切ったところで言うと、
6月は大体来訪者が約2800人くらいで、7月は4500人ぐらい来ているので、
7月の来訪者が6月に比べ60%増加しています。

グラフにランクと書いているのは、
ブログウォッチャーが持っている、来訪者がどのあたりに住んでいるか想定したデータを基に、
6月と7月の来訪者数の増加率を出してます。

例えば、一番上の岡山北区(奉還町商店街がある区)が来訪者が一番多くて、
その区内だけでも、110%程度増加していたり、トップ5は軒並み増加してたりします。
こういったところのデータ見ながら、ただコンテンツをやるだけではなく、
例えば集客の施策をした後にどれだけ変化があったか、来訪者はどこから来ているのか、
と言ったデータを基に、
「あなたはこういう場所に来店施策をやった方がいいです」
と言ったことを提案できるようになるのかなと思っています。

8)まとめ

今回のお話では「ロケーション」というワードがすごくキーになってくるかなと思ってます。
ただ単にXRを実施するだけではなく、
いかに多くの人に来てもらい、多くの人に体験してもらい、
それをシェアしてどんどん広げていくことが必要なんだと思ってます。

メタバースとかAR・VRとかも「1回やってみたい」で終わっちゃってることがすごい多いので、
一度やって、それを計測・分析して改善していくということが必須だなと感じました。

やはり何をやるにしても、
なかなかすぐに結果を出すのは新しいことであれば尚更難しいと思います。
なので、継続してやりながら、何が最適解かを模索し続けることと、
いかに価値を最大化してどれだけ大きく楽しんでもらえるか
というところをこれからも両者でやっていきたいなと思ってます。