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組織&DATAの複雑系を読み解く手法の探求〜テクノロジーの進化に伴う、人や組織のあり方とは〜

今回は2022年度の「&DATA EXPO」DAY3講演から
株式会社リクルート 福田様、株式会社プライバシーテック 山下様に登壇いただいた
「組織&DATAの複雑系を読み解く手法の探求〜テクノロジーの進化に伴う、人や組織のあり方とは〜」の講演レポートです。

「複数系システム、人間心理や行動の理解」を通した、
現代の不確実性の高い環境下における組織変革や
イノベーションを実現に導く手法と実践例を議論します!

==========お話いただいた方==========
株式会社リクルート
HITOLABエグゼクティブ
福田竹志 様

株式会社プライバシーテック
代表取締役
山下大介 様
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1)今回のテーマ

 

ビッグデータの活用や、使い勝手の良いクラウドサービスやDXツールは
技術革新によって大きく進化してきました。

一方、社会情勢が大きく変化する昨今、
私たち、人や組織は、従来の価値観や物の見方、考え方を自らアップデートし、
行動を変えて課題に適応していくことが求められています。

単なるDX組織作りの観点だけでなく
「複雑系システム」「人間心理や行動」の理解を通した不確実性の高い環境下における組織変革や
イノベーションを実現に導く手法と実践例をこちらで議論していきたいと思っております。

2)登壇者紹介

福田竹志 様

株式会社リクルートにおいてHITOLABを設立し、
人事部長などの様々な経験を生かし、「人と組織」に関わるプロジェクトを進行中。
HITOLABでは、
社内に向けた人事施策組織制度を社外に提供したらどうなるのかということで、
様々なステークホルダーと組織に関わることを行っています。

山下大介 様

 

様々な企業で事業開発・営業企画・マーケティング・経営企画等を経てリクルートに入社。
リクルートでは、
プライバシーセンターのプロデュースやデータ人材の教育プログラムの開発に携り、
テクノロジーを活用してプライバシーを科学することを目指し、独立。
現在は株式会社プライバシーテック代表取締役として活動しています。

また、直近までブログウォッチャーのデータプライバシーオフィサーのお仕事をされたり、
一般社団法人LBMA Japanの共通ガイドラインの新編集委員を勤めていらっしゃいます。

3)HITOLABとは?

HITOLABとは株式会社リクルートの中にある組織ですが、
社外の方々とコミュニケーションをとって仕事を進めることが大半です。
なので、「人と組織」と申し上げましたが、
リクルート従業員だけが対象ではなく、
画像に書いてある通り「ヒト」は学生や市民など、
「組織」は学校や地域、行政などと関わっています。

「CO-EN」

HITOLABのコンセプトとして「CO-EN」を掲げています。

そもそも「CO-EN」とは
「公園」と「Co-Encounter(出会い)」の2つを掛け合わせた造語です。
公園は出入り自由で誰もが遊んでいて、
様々な出会い(Co-Encounter)がある場所で、
リクルートという企業をそんな場にしたいという思いがありました。

例えばリクルートも、住まいカンパニーやライフスタイル、
マーケティングパートナーズなどいくつもの会社に分社されていましたが、
去年また統合されました。
そうすると、普段だったらSUUMOの営業職同士しか喋らなかったのが、
ゼクシィやじゃらんの人事の人と話す機会ができ、
その中で気づきが生まれ、新たなトライがどんどん生まれていくと思います。
この同心円をどんどん外側に広げて、
例えばOB OGといった方や、
リクルートで働いたことはないが、リクルートの商品を使っていただいていて、一緒に何かやってみたいという方、
将来リクルートで働く可能性がある人、
といったところに広げていきたいと考えています。

このように、外に出て「CO-EN」のような場所を沢山作っている部署になります。

活動領域

リクルートの強みは人と組織なので、
長期的に関わってお役に立てるものは何かと考えたところ、
3つ挙げられるかなと考えました。

①学び
②地域と一緒に新しい形の地方自治を作ること
③キャリア教育

という分野がお役に立てるのではないかというところで、
今力を入れて活動しているところです。

4)「複雑系」を読み解く手法の模索

「複雑系」とは

ー山下ー

今日のこのセッションのテーマが
組織&データの「複雑系」を読み解く手法の探求ということで、
「複雑系」ってあまり聞き慣れない言葉かなというふうに思います。

ちょっとこの言葉をどのように理解したらいいのか。
ぜひ教えていただきたいです。

ー福田ー

簡単にいうと、
「良かれと思ってやったことが回り回って、当初の意図とは全然違うことになるよ」
複雑系っていうそういう概念なんですね。

例えば「お腹が空いたから、パンを食べればいい」といったように、
問題と解決が単純な因果で結ばれてはいないということです。
いろんな知識を、画像の絵でいくと氷山の上の方に付けていくのは全然間違ってないし素晴らしいことなんですけど、
もしかしたら水面の下にある考え方自体を変えないと複雑系に対応することは難しいんじゃないの、
ということでリクルート内でも思考習慣にアプローチしたり、
いろいろ施策を行っています。

ー山下ー

複雑系っていうのは、
今までだったら単純な因果で説明できてきたものが、
時代が大きく変化している中において、
単純には語れないものを捉えようという概念なんですね。

「複雑系」への対処法

ー福田ー

では、どうやって「複雑系」に対処していくのか
ということを紹介していきたいと思います。

まずは不確実性とか複雑系に対応するシステム思考(AだからBっていうソリューションじゃない形)でどういうふうに全体をシステム系として捉えるのか、
という俯瞰のことを学びます。

次に、自分を知る必要があります。

学校のカリキュラムでもよく言われますが、
昔は地図でよかったのが今はコンパスが必要であると。
なので例えば、
いい高校行って、いい大学行って、いい企業に入ったら幸せであるみたいな地図、正解のルート的なものがありましたが、今はそれがないので、
コンパスのように「どっちから来たか?どこへ向かうか?」みたいなことが分かる必要があります。
そして、それは自分の中にしかないので、自分を知る必要があるのです。

そこから人と課題に対峙して、
リーダーシップを発揮していく、というような構造で考えています。

 

左のように上意下達で「俺の言う通りやれ」っていうのは早いんですが、
時代が変わってしまうとその勝ちパターンが一気に崩れてしまうってこともあります。
また、その反省を経て真ん中のサーバントリーダーという「お前はどうしたいんだ?」って聞いて回るリーダーも有効だし納得を得やすいんですけど、
一気に「こっちへ向うぜ」っていうふうに船の舵を切るのは時間もかかり、
なかなか難しいところがあります。
なので、今度はアダプティブリーダーという2010年くらいから出てきた概念なのですが、
コンパスのようにいろんなことをナビゲートできるようなリーダーの形が新たに考えられています。
自分自身もシステムの一部であると考え、
ビジョンを示し情報を共有することで、組織を有機的に導いていくのが特徴です。

 
次に、この画像はムクドリの群れの動きなのですが、
夕方になったらいろんな虫とかを取りながら数万羽で巣まで帰っていく鳥の群れです。

 

ムクドリの群れは絶対的なリーダーがいないにもかかわらず、
環境が変わっても群れとして一丸となって行動することができています。

それはなぜかというと、
群れの中にプロトコルがあるということらしく、
1羽は周りの7羽を見て、それがアメーバ状に広がっていくことで、
群れの全体性を担保しているということだそうです。

つまり、ムクドリの群れ何万羽が飛行していくときには、
きちっと何かの「右へ・左へ・動け・止まれ」などと統率をしているわけではなく、
皆が自分の周りの7羽を見ることで、
全体としてまとまって動いているということだそうです。 

変化の激しい時代にあって、
何かこういう要素を組織に盛り込めないかなということで、
先程の図だと一番土台になっているシステム思考を学んだリーダーが
人のマネジメントをできたら、マネジメントのレベルが上がっていくと考えています。

組織を動かす際、
上の画像の右上に戦略テーマがあったら、当然「戦略」は右上を向きます。
しかし、下の人材配置や組織構成、文化がそっぽ向いていたら、
実現することはできません。
なので全ての矢印が同じ方向を向いていることが必要になってきます。

ムクドリの例で言うと、ゴールは鳥がちゃんと安全に巣に帰ることです。
そこの行動様式は周りの7羽を見てぶつからないように飛ぶことですし、
群れとして大きく見えるので外敵にも襲われず安全に巣まで帰ることができます。

これを今までのマネジメント方法でやると
ルールを360個ぐらい書いて従わせる!みたいなことになりかねないので、
何かしらの7羽ルールみたいなことをインプットしておいて
複雑性に対応することができないかなという発想をしています。

ー山下ー

一見すると鳥の動きも何も考えずに周りに合わせてるだけなのかなと捉えられるんですけども、そうじゃなくて、
何らかの共通の目的を持った上で動いていると、
だからこそ、同じような動きが隊列を組みながらされていると言うふうに理解しました。

 

ムクドリのような例を体現すべく、
高校生に対しても高知県や経産省、ミネルバ大学と組んで「未来の教室」というものをやっています。
気になる方はこちらから。

今回のテーマはDXとかいろんなビッグデータを取り入れるときに、
人や組織がこれまでやってきた様式からどうやって乗り換えていくかが課題だと思います。
リクルートの中では、
さっきの氷山の下のところを新しい行動様式に進化していくにはどうしたらいいか、
ということを試行錯誤しながらやっています。

6)炎上から読み解くプライバシー保護のあり方

炎上の起こるメカニズム

ー山下ー

私の仕事は今でこそプライバシーという領域を専門的にやっていますが、
元々はブログウォッチャー社で、攻めのデータ活用を担当していました。
このデータの攻めをやっていく中で、
どうしても守りを固めなければ、すぐに限界が来てしまうなというところがありました。
 

画像は実際データを使った炎上案件で過去起きたものを挙げていますが、
実はほとんどのケースにおいて、法令違反は起きていません。

しかし、その取得するデータが、
個人情報保護法には当時保護の対象として明確には書かれていないものであったり、
アウトプットの説明がわかりにくいとか、
ユーザーのメリットが不足していることがあからさまになってくると炎上が広がっていきます。

 
これがなぜ起こるのかというと、
画像左側の個人情報保護法により守られるべき範囲を越えたからではなく、
右のプライバシー保護で考慮すべき範囲(法律で明文化されているわけではない)から外れてしまうと、炎上が起きてしまうと考えられます。

対処法

 

リクナビDMP問題という事件が起きた際に、
データサイエンティスト協会の方がおっしゃっていたのが、
「ビッグデータの専門知識を持ったデータサイエンティストが処理をしないと、データの意味や内容を一般の人は理解できません。
なので、万が一データサイエンティストが分析結果を捻じ曲げて報告しても、
依頼者はその報告を信じるしかないです。
逆にこの依頼者が想定しているような分析結果が出なくても、
データサイエンティストはそれを率直にありのままに
ちゃんと説明する責任があります。こうした意味で倫理観が求められる仕事だ」
ということをおっしゃっています。

 

もう一つプライバシーをどう組織の中でガバナンスを図っていくかということを考えるときに参考になるのが、
アメリカのデュポン社という化学メーカーが作っている「安全文化の発展モデル」というもので、ブラッドリーカーブというものがあります。

画像の図の縦軸が、リスクの度合いを表しており、
縦軸が濃ければ濃いほどリスクが高く、横に行くほどリスクが下がります。

反応型:一番リスクの高い状態で、何か問題が起きた際にそれをモグラたたきのように潰しに行くことで対応をしていく組織。
依存型:経営者はコミットメントをしているが、その他は決まりであったりが罰則でマネジメントされている組織。
独立型:1人1人が正しい知識を持っており、ちゃんと決められたルールを守っていける組織。
相互啓発型:一番安全とされる形で、お互いにチームでリスクをカバーし合ったり、何か起きそうになったら相互にフォローし合える組織。

以上のように分類されています。

ー福田ー

見ていて、グラフの上に
「コンプライアンスからコミットメントへ」って書いてあるのが面白いなと思ったのですが、
コンプライアンスは外発的動機だから言われたからやるっていうことに対して、
コミットメントっていうのは内発的動機だから自分が必要だからやるっていう、
そういう違いなんですかね。

ー山下ー

まさにそうだと思ってます。
コンプライアンスは本当に厳格にしようと思うと、
この会社の中のドキュメントで何十ページも文書を作って
それにちゃんと違反してないかどうか審査したり、
現場の担当者が全部を見れないので、
それを部門の人が最後チェックするみたいなものが
コンプライアンスかなというふうに思います。

一方、コミットメントはもっと先に進んでいて、
一人一人がちゃんと目的や意図を理解した上で、
リスクがありそうなときに自ら参照していく。
そんな手が回ってる状態がコミットメントっていうふうに言えるのかなと思います。

1つさっきのその法令で守れないプライバシーというところで大きく枠組みがあったんですが、
よりわかりやすく整理するフレームワークとして私達が普段から用いているのが
「ELSI」というものになっています。

この中で、倫理というのが普遍的な「正義とは何か」とか「人々にとっても公平性というのは何か」、「尊厳って何か」っていうもので、
これは原則として人間が生きてる限りではそこまで大きく変化しないが、
必ずしも明示的じゃなくて、熟慮が必要なものになります。

法律は、どうしても技術が進んでいくので全てをカバーすることができません。
特にこのDXであったり、データを使うということに関していうと、
どんどんテクノロジーが先を進んでいくので、
法律はどうしても後からキャッチアップするみたいな形になります。
ただ、法律は解釈の余地があるものの、
比較的明示的で対応しやすいというものでもあります。

この社会的課題っていうところが少しなじみがないんですけども、
言ってみれば世の中の空気だったりとか、評価みたいなもので、
非常に変化しやすいです。

ー福田ー

面白いですね。
さっきの法的範囲はしっかりと決まってるんだけど、
それより大きなものを倫理と社会に分けて変化するか
明示されているかみたいなところでもまた考え方が変わってくるってことですね。

 

ー山下ー

次に、これは私がブログウォッチャーであったり
リクルートの中でいろいろ経験をしてきて、
プライバシーガバナンスはこうあるべきだと考えを整理したものになっています。

左側のルールとか罰則で統制を強化していくというやり方は、
リスク判断がリーダー層に限定されたり、
リスク部門の経験とか専門知識に依存します。
現場の人たちはそういった経験も知識も持っていないから、
何が何だかわからないという状態になります。

情報展開のところで言うと、ルールや規定はあくまで決定事項として、共有されます。内容も、読んでも文字だけで難しい言葉で書かれていたり、
といったことが起きてしまいます。
そうすると、ガバナンス部門と現場の対立構造が生まれてしまうことが多々あります。そういうことが積み重なってくると、
不安や気持ち悪さを口にしづらくなったり、
何か問題が起きたとき、責任を押し付け合いが生まれてしまう組織になると思っています。

こういう形だと、
先ほどのデータ施策におけるプライバシーの観点が
見落とされやすいのかなというふうに思います。

ー福田ー

面白いですね。
ヒヤリハットみたいなことが重なっていくと本当に事故が起こることもある。
逆に攻めのところであるユーザーはこう言っててすごい価値ある発見なんだけど
その事業計画を進めたいからこんなのを無視して今まで通りの考え方で行こうぜ、
みたいなことだったらチャンスを失ったりする。

なので、下の二つ、組織風土や、現場で聞かれる声っていうのは
何か小さな事に見えてすごく大きな本質を含んでるような気がします。
かつ、それらはルールで縛れないっていう発想ですよね。

ー山下ー

実際本当にあると思います。
目標があるからとか、
何とか成果を出さなければいけないから、
プライバシーのリスクはあるかもしれないけど、
一旦横に置いてそれで進んでしまい、あとからそれが炎上する
みたいなことが実際あるんじゃないかなというふうに思います。

なので、こういった状況を脱していきたいなと、
競争力を本質的に高めていくためにどういうふうにしていくかというと、
やっぱり一人一人ちゃんと原理原則であったり、価値観というものがわかる。
そして、どういうふうに考えていくのかという、
その考え方自体を共有することがすごく重要なんじゃないかなというふうに思っております。

そして、リスク判断に関しては、
対話というのがすごく重要になってくると思います。
また、リスク対応を考えるための知識とか情報っていうのも
理解しやすい形でちゃんと公開・共有してあげることも細かい積み重ねですが、
重要になってくると思っております。

現場でユーザー視点で考えるとこれ問題がありそうだよねっていうこととか、
プライバシーリスクの事前リスクをちゃんと事前に確認しておこうとか、
あと懸念点は他のメンバーであったり、リスク部門に相談しておこう
といった会話が日常的に生まれてくるといいのかなと思っています。

 

こういった経験を踏まえて、
プライバシーテックという会社で独立をしているんですけども、
このDXの推進を図る企業の経営者や人材を中心に、
プライバシーの多様な目的や手法をアクティブラーニングを通して取得するような
研修もやらせていただいております。

研修に関してのご要望があればお問い合わせいただけたらと思います。