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広域自治体が取り組む観光DX~観光客の可視化とその先へ~

今回は2022年度の「&DATA EXPO」のDAY2講演から
東京観光財団様、広島県観光連盟様より、
「広域自治体が取り組む観光DX~観光客の可視化とその先へ~」の講演レポートです。        

地域が一体となって観光振興に取り組むための舵取り役として、
広域自治体への期待が高まっている中、
東京と広島という代表的な観光地を擁する広域観光行政に関わるお二方をお招きし、
人流データを活用した観光動態データの整備とその活用についてお話を伺いました!!

==========お話いただいた方==========
公益財団法人 東京観光財団
総務部総務課(企画調査担当)主任
山村美穂 様

一般社団法人 広島県観光連盟
カスタマーマーケティンググループグループリーダー
中野隆治 様
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==========モデレーター============
株式会社ブログウォッチャー
おでかけ研究所 所長
酒井幸輝 様
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1)「おでかけウォッチャー」とは?

今回ご紹介する観光DX(1*)の取り組みでは、
ブログウォッチャー社の人流データを活用したサービス
「おでかけウォッチャー」をご活用いただいております。
そのため、どういったサービスなのかを紹介させていただきます。

おでかけウォッチャーは「デジタル観光統計」を身近に。をコンセプトに、
人流モニタリングツールの中でも、自治体観光分析に特化をしているのが特徴です。

サービスの内容は、
行政自治体様向けのデジタル統計サービスになっていて、
ブログウォッチャー社が提供する位置情報データを採用しております。
250の自治体様にご利用いただいており、
フル機能は約20件ほどの自治体様に使っていただいています。

2022年の2月にサービスが本格的に提供開始をしたばかりで、
まだ半年ほどしかたっていないサービスではありますが、
本日登壇いただく東京観光財団様、広島県様はじめ
様々な地域にご期待をいただいているサービスです。

来訪地分析:どこに人が来ているのかを観光スポット単位で表示
発地分析:観光スポットに訪れた方の発地を市区町村単位・都道府県単位で表示
属性分析:性別・年代別にどんな人が来ているのかというのを表示
周遊分析:観光スポットのどことどこを周遊したのかを表示

今回はこのサービスを実際に活用いただき、
様々な成果を出した自治体様より事例の紹介をしていただきます。

(1*)企業がAI、IoT、ビッグデータなどのデジタル技術を用いて、
業務の改善や新たなビジネスモデルの創出だけでなく、
古い体制からの脱却や企業風土の変革を実現させることを意味する。

2)観光DX取り組み〜東京観光財団様(TCVB)〜

TCVBとは?

財団の理念として、「世界から選ばれ続けるTOKYOへ」を掲げ、
東京の観光振興になっている公益財団法人です。
東京都の政策連携団体でもあり、東京都の観光行政も補完しています。
主な事業領域は多岐に渡りますが、
その中でも総務部の企画調査部門では、賛助会員様への企画運営、
TCVB自体の広報、東京の観光課題に対する調査や共同研究をしています。

東京の特徴

そもそも、東京を旅行地として考えたとき、
エリアの特性が多岐に渡っていることが大きな特徴です。
その分、エリアごとに特性が異なるため東京のどのエリアに人が来て、
それはどういう人なのかというデータが、
マーケティングをする上で必要となってきます。
そして、そのデータは東京全体ではなくて、
地域ごとに落とし込むことが重要だと考えています。

よって、地域ごとの観光統計が必要になってきますが、
現段階ではデータが不足しており、
またそれを活用できる人材も経験も不足していると感じています。

「おでかけウォッチャー」導入経緯

コロナの前の話ですが、
東京は非常に人口が多いのでそこまで大きな問題になっていませんでしたが、
京都などで起きていたオーバーツーリズム(2*)の問題が
いずれ局所的に東京でも起こりうると認識していました。
そのため、東京を持続可能な観光地にする為の方法を
模索しなければならないと考えていました。

そのような中、コロナのパンデミックが起き、移動や様々な行動制限が行われ、
それに伴い「密を避けたい」といった旅行の意識も変化してきました。
なので都内において、いつどこで多くの人出があるかをしっかりとリアルタイムで把握する必要を感じていました。

それらを踏まえると、おでかけウォッチャーを導入した大きな理由は

・東京を持続可能な観光地にするためのデータ集めるため
・観光地の混雑の見える化するため
・コロナ以降の観光客の行動特性の把握をするため

です。これらのデータは観光協会などの連携先の皆様のマーケティング活動支援になると考えました。

(2*)観光客が過剰に増加し、
観光地の地域住民の生活や自然環境に悪影響を与えること。

「おでかけウォッチャー」の活用法

今私達は、都内の代表的な観光スポットを100ヶ所選定し、
おでかけウォッチャーで見ることができる4領域で、
どういった人流の変化があるかを調査しています。
その結果を2ヶ月ごとに賛助会員様限定にレポートとして配信しています。
レポートの内容は、各スポットの月ごとの来訪者数や、
ゴールデンウィークにどんな変化があったかといった、
そのシーズンによって見られる人流の変化を特集的に組んだりもしています。

おでかけウオッチャーを活用することで見えてくることは、
今どこに人が来てるのかをリアルタイムに把握できるようになりました。
例えば、「あの代表的なスポットは遠いところから人が来ているな」「このスポットは地元の人が多いのかな」といったことが可視化できるようになります。
こういったことがわかると、
地域のハブとなるスポットを把握した上での人の流れ作りが
非常に重要になってくると感じました。

また、コロナで都民の人たちが遠出をせず近場で過ごす傾向が強まっている
と言われていましたが、そういった傾向も可視化することができました。
そのお陰で、都内の地域にとっては
都民のマーケティングデータも非常に重要だということがわかりました。

これらが可視化されることによって、
各エリアごとにターゲットに向けた有効な集客プロモーションができるようになると感じています。

導入のメリット

TCVBは、事業運営している中でいろんな観光データや調査を行っていますが、
それらを全て会員の方や一般の方に還元できていない実情があります。
また、東京都の旅行者調査は基本的に年1回しか行われておらず、
観光データ活用の必要性が重要とされる昨今で、
TCVBとして出来ることはないかと考えていました。

そこで、おでかけウォッチャーを導入することで、
私達自身が人流データを管理・活用・加工できるようになり、
ニーズに合わせたデータの提供ができるようになりました。

もう一つは、観光業界でもDXの必要性が問われている中で、
私達のようなDMOの職員1人1人が観光データを読み解き、
活用する力を十分に持っているわけではありません。
しかし、おでかけウォッチャーの導入をきっかけに多くの職員が観光データに慣れ、
活用することで専門性の向上に繋がると言うのが良い点だと思っています。

改善点

分析対象の100スポットは23区が多めになっており、
都内の全域をバランスよく見るにはまだ十分ではないと思っています。
なので、各自治体や観光協会の地域の人たちが指定するスポットをさらに追加していければ、
東京都として一層充実したマーケティングデータになる可能性があると思ってます。

また、東京のスポットの特徴として気づいたことは、
スカイツリーや六本木ヒルズ、サンシャインシティといった
複合施設が多いということです。
複合施設は様々な要素の施設が集まっているため人が沢山集まりますが、
来た人たちの目的がアートなのか、ショッピングなのか、
それともスポーツなのかはよくわかりませんでした。
そういった点も、地域の人たちと一緒に連携することによって、
より細かいイベント情報も把握でき、その時々のことが詳細に分かるので、
分析もより精度の高いものになっていくと考えています。

今後の活用について

現在コロナ禍において、メジャーな観光地ではなく、
知られてない場所に行きたいとか、自然の多いスポットに行きたいという
新しいトレンドが生まれています。
そのため、こういったトレンドをしっかりと捉えた地域ごとの戦略が必要不可欠です。
しかし、私達が観光協会の方々に対し行っているアンケートでは、
データ不足や、それを活用できる人材・経験もないということで、
各地域のマーケティング活動が弱いことがわかっています。
そういった状態では、的確なターゲットに向けた戦略を立てたり、
プロモーションするのは非常にやりにくい状況かと思っています。

そこで、おでかけウォッチャーを導入することにより、
事業の効率化が図れるのではないかと思ってます。
そういった意味で、
私達がまず導入してノウハウを地域の人たちに提供して一緒に運用し、
より広範なエリアごとの人流把握を拡大できるようになればと思ってます。
それによって、有効なプロモーションと事業の効率化にも繋がると考えています。

また、民間事業者の皆様から観光データの提供をして欲しいというリクエストをいただいています。
施設の個々のデータについては持っていると思いますが、
おでかけウォッチャーで得られる、
エリアの人流特性のデータまでは持っていない可能性もあるので、
そういった皆様にとっても活用いただけるかなと思います。

こうやってTCVBを介してエリアごとの人流データを入手していただくことによって、
皆様のマーケティングデータにも役立ちますし、
地域が一体となった、サステナブルな観光振興に繋げていけるのではないかと思っております。

ーー東京観光財団様の取り組みとして、地域ときちんと向き合っていらっしゃるということがよくわかりました。地域の課題として、データの人材や経験が不足しており、その解決を東京観光財団様が担って、実際に職員の方が分析ツールを活用し、その分析結果を会員の方々にお届けをされているという、自治体様の中でも先進的な事例だと思いました。ーー

3)観光DX取り組み〜広島県観光連盟様(HIT)〜

HITとは?

 

HITは、広島県域の観光振興を一元的に担う組織として結成されました。
以前から広島県観光連盟はありましたが、
それまで並行していた県の観光課と観光連盟を新ためて役割分担し、
当時広島県観光連盟で担っていた県域の観光振興業務も
全てHITの方で一元的に担うものとして再編されました。
そのときから民間出身者をトップに据え、広島県で行っていた事務を移譲し、
広島県からの出向者も増やし、今の体制になっています。

 

我々HITは5ヶ年戦略というものを掲げております。
これは、一言で言えば、
「満足度向上によるリピーターブルな観光地」を目指すというものです。
そして、この目標に向け大きく3つの部署に別れて取り組みを進めています。

①カスタマーマーケティンググループ:顧客視点でのマーケティングの浸透
②プロダクト開発・受入環境整備:何度も訪れたくなる多様な広島の魅力作り
③カスタマーコミュニケーション:広島ファンを増やし自立的なプロモーションへ

こうした取り組みを
お客様のニーズに基づいて進めるということを基本方針として定めており、
さらにそれらの取り組みを皆が当事者になって、
自走化していこうという方向性で取り組んでいます。

今回は3つの取り組みの中でも、
カスタマーマーケティングの目指す姿についてお話したいと思います。

目指す姿は、令和3年度から上の画像のようなステップを踏み、
令和7年度に県域で自発的なマーケティングが実施できている状態です。
そして自発的なマーケティングの実施をする上での主語はHITだけではなく、
市や街の観光協会の皆さんやDMOの皆さん、
そして観光に携わる事業者の皆さんといった方々も含まれます。

なぜなら、我々HITが目標値として掲げている値は、
HITだけの取り組みで達成することはできないからです。
広島県の観光に携わる様々なパートナーの皆さんと一緒になって取り組んで初めて達成できる数字だと考えています。
ですので、県域の観光振興を一緒にやっていくパートナーの皆さんも
それぞれ自発的なマーケティングが実施できている状態ということを目指していきたいと思っています。

そして、そのための仕組みの構築を我々HITはやっていきたいと思っております。

次に、その仕組みの構築についてお話をしたいと思います。

まず、我々のマーケティンググループでは、
戦略・政策に活かすために、様々なデータを集めております。

例えば、何か市町の皆さんに一緒にやっていただきたいとことがあるとき、
「データがありますので上手く活用してください」とお伝えしても、
自発的なマーケティングができるようにはなりません。
これはHITの中でも同じで、
まずどういったデータを集めるかというところから、使いやすいデータを集め、
そしてそれを使いやすいように可視化・分析し、
活用するというステップを踏んでいく必要があると思っています。

HITではデータを使いやすくするために、
集めたデータは我々が運営するホームページの中で可視化して、
グラフとしてどなたにでも見ていただけるような形で公表をしていっております。

一方で、実際に皆がデータを分析・活用できるようになるために、
現在、県内の市町さんや観光協会さん、DMOさんといった方々と一緒に
月に1回勉強会をしています。
そうした勉強会を通じて分析・活用のレベルアップを一緒に図って行っております。

広島県の課題

では、広島県ではどういったデータを集めていて、
それにどういった課題があるのかということをお話しさせていただきます。

現在、様々なデータを集めホームページで公表していますが、
現状必要なデータがなかなか入手できていないといった現状があります。

・観光スポットで対面アンケートを実施していたが、コロナによって実施し難い状況になってしまった。
・効果検証に課題のあるデータがある。
・市町の皆さんからいただくデータの集計の方法が市町ごとにばらつきがある。
・観光客数を把握する上における、観光施設の選定の基準にも市町さんによって取り組み方が少し違いがある。
・これまでアナログのやり方でデータを集めて来たので、市町さんでの集計・推計あるいは県全体としての取りまとめにすごく作業量があり、事務をする方が大変な状況にある。

こういった課題があるため、
観光統計の精度向上の必要性は認識しているものの、
従来のデータの集め方では困難というふうに考えておりました。

そこで、集めるデータの取り方を見直そうと取り組んでいるところでございます。
その見直しの方向性は、大きく四つの視点を念頭に置いて進めています。

①推計方法の精度向上と、そのやり方を説明できる状態にする。
②市町ごとで数値が比較できるようにするために、手法の統一をする。
③データを集めてから公表するまでのサイクルをできるだけ短くする。
④観光統計データは限られているため、リソースの費用対効果を高める。

こうした4つの視点を持って観光統計全体の見直しをしており、
その中で、観光客数の把握においては
おでかけウォッチャーのサービスを使わせていただくことを検討しています。

なぜ「おでかけウオッチャー」なのか

なぜおでかけウォッチャーを選んだのかというところで、
大きく3つのポイントをリストアップしました。

①把握したいスポット登録できる

広島県では、ロングテールのプロダクト開発を進めており、
これからもどんどん新しい観光プロダクトやスポットを生み出していきたいと思っています。
しかし、観光プロダクトや観光スポットを生み出したままでは意味がなく、
分析していく必要があります。
その点、おでかけウォッチャーの場合、スポットの登録が簡単にでき、
その登録したスポットのお客様の数を把握することができるようになります。

現在広島県では、市町の皆さんにもご協力をいただき、
1660ヶ所のスポットを登録をさせていただいており、
そのスポットごとの客数が把握できる状態を県内全体で実現できています。

②市町などのパートナーさんと同じ仕組みで分析できる

広島県では県内の市町さん、あるいは希望される観光協会さんやDMOさんに
お出かけウォッチャーのIDとパスワードを配布させていただきました。
これによって、パートナーさんがHITと同じダッシュボードを見ながら分析ができるようになりました。
これまでは別々のものを見ながら比較ができないことがありましたが、
今後は県内で同じものを見ながら分析することができると思っております。

③ダッシュボードから必要なデータを抽出できる

確かに、決まったフォームで、
決まったレポートをまとめていただくことも重要ではあります。
しかし、今話し合っているこのスポットは
実際どうなっているのかをすぐに見ることができる。
あるいはそのデータをダウンロードして
手元でクロス集計することができることが魅力かなと感じています。

こうした背景があって、
おでかけウォッチャーの導入をさせていただくことになりました。

ーー広島県観光連盟様の取り組みとしてみんなで取り組むというのが非常に印象的だったと思います。みんなで取り組むために共通の物差しを作る必要があり、さらにその観光統計の見直しまで進められており、必要性は理解されつつもここまで進んでいらっしゃる地域は少ないのでないかなというふうに思いました。ーー

ーー今回は地域の特徴に合わせて試行錯誤している広域自治体の方での取り組みということで、常にリアリティのあるお話しをしていただきました。皆様ありがとうございました。どうぞ引き続きよろしくお願いいたします。ーー