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人流データとAI査定で物件価値を ビジュアライズ/プライスハブルジャパン様

今回は2022年度の「&DATA EXPO」のDAY1講演から
株式会社プライスハブルジャパン田中様より、
「人流データとAI査定で物件価値をビジュアライズ」の講演レポートです。

不動産価値の予測とビジュアライズサービスで
欧州において急成長しているプライスハブルが、
ブログウォッチャーの人流データをかけ合わせて、
新たなインサイトの発見にチャレンジします!!

==========お話いただいた方==========
株式会社プライスハブルジャパン 
取締役 CTO
田中 英輝様 
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1)本日のテーマ

本日のテーマは上の画像の通りになっています。
なお今回は、売買も含むと非常に長くなってしまうため、
あえて賃料をテーマにしました。

それでは早速、会社概要の説明に入らせていただきます。

2)会社概要

弊社は、AIによる不動産査定とビッグデータの視覚化をコア技術として
サービスを展開しております。

これは東京都の白金付近の価格をマップ上にグラデーションで視覚化したもので、
これにより、どのあたりの賃料が高いのか、安いのか、
ということが一目でわかるようになっています。
画像左上では、実際物件査定をしてみて、
AIが予測する金額はどれくらいなのかを表しています。
左下のグラフは、
物件の過去から未来に向けての価格変動をAIによって予測しているものです。

設立背景

次に、弊社の設立背景についてお話いたします。

スイスで2016年に、
マッキンゼーのシニアコンサルタント出身のステファン・ハイトマンが設立しました。

スイスの不動産融資・投資の案件を扱うときに、
不動産の価格があまりにも不透明ということで、
何とか自分達で可視化できないだろうかというチャレンジをきっかけとして生まれたサービスです。

スイスを含めたヨーロッパ諸国は、
金融機関が積極的に不動産の仲介に参画しており、
金融と不動産の関係が日本よりも密になっています。
弊社も金融サイドから最初に評価していただいて、
スイスではこの分野においてはリーダー的な存在になっています。
その後、フランスやドイツ、そして2019年に日本法人を設立し現在に至ります。

生存領域

続いて、弊社の生存領域についてのお話です。

先ほどお話しましたとおり、
ヨーロッパにおいては左側の金融業界にルーツがあるので、
銀行や保険会社を中心に不動産仲介のサポートや、
AIによるインサイトを使った融資・投資の意思決定を促進する
コンサルティングサービスやプロダクトを提供しております。
不動産データを扱っておりますので不動産業界に関するサービスも提供しています。

また、単にプロダクトを提供するだけではなく
顧客の業態に合わせた適切なデータ分析も行っております。

強み

弊社は不動産テック企業ではありますが、
創業の経緯もあり、コンサルタント出身者が非常に多く在籍しています。
また、経済学・統計学・数学・工学といった博士号を保有する者も多くいます。
こういった人員構成であるからこそ、
不動産業界だけでなく金融業界などの様々な業界や業種に対して
独自のサービスを提供できています。

3)プライスハブルのAI技術について

ここからは、プライスハブル全体としての最先端技術をご紹介したいという趣旨で、ヨーロッパだけで提供されているサービスについてもお話いたします。
一部日本では未対応のものがありますのでご容赦ください。

プライスハブルのAIエンジンの仕組み

プライスハブルのAIエンジンが、
どのようなプロセスでアウトプットを出しているかを簡単に表したものが上の図です。
左側はデータの収集・加工を示しています。
情報ソースとしてポータルサイトや行政機関、各種統計情報、パートナー企業、
エージェント、不動産開発会社からデータを集めております。

データの内容としては募集データ、取引データ、POI(Point of interest)等です。
特にPOIには非常に力を入れております。

また弊社は、駅や道路、騒音、景観、日当たり、口コミといった
一見不動産に直接関係がなさそうなデータも日々分析しています。
これらのデータで賃料査定・売買価格査定の算出、将来予測、
類似物件抽出等を行っています。

プロダクトとしては大きく3つの形態で提供しています。

1つ目はWebプロダクトで、これは冒頭でご紹介した画面のプロダクトです。

2つ目はAPIです。
APIをご活用いただくことで、
企業様がお持ちのシステムに、査定データなどを表示することが出来ます。

3つ目は企業様のご要望に応じて
独自のデータ作成やレポートを提供するサービスです。

こちらは、スイスで提供しているWebアプリケーションの画面になります。
スイス版が1番進んでおり、機能は豊富です。
騒音や周辺施設などのデータについてのスコアリングや、
スコアに基づいたAIエンジンによる査定推定のグラフ化。
加えて、現在保有している物件を貸したらいくらになるか、
どのくらいの収入を得られるかといった予測や資産シミュレーションが可能です。

さらに、景観や日照時間、騒音のデータもヨーロッパでは取得出来ており、
非常に評価をいただいております。
実際、これらのデータは賃料や売買価格に影響しますので、
こういったものも視覚化して
AIエンジンの非常に重要な構成要素となるような開発を日々行っております。

POI(Point Of Interest)について

先ほど触れたPOIについて少し説明いたします。

プラスハブルのAIエンジンは
周辺環境の質や位置関係を非常に重視したAIアーキテクチャになっています。
周辺環境や位置情報の把握においてPOIを活用しています。

上のチャートは、2015年頃にアメリカで発表されたリサーチを可視化したものです。
不動産の物件価値の将来予測については、
従来の指標(左側のグラフ)よりも周辺にどういう設備があって、
どのような位置関係にあるかというデータ(右側のグラフ)の方が
より影響を与えていることがわかりました。

右端に記載している内容が実際に追跡調査してわかった結果です。
ボストン市内でスターバックスが1店出店され、
その後7年間で周囲400m内の物件価格が171%も上昇していました。
これは同じ市の中の他の場所と比べて45%程度高い結果でした。
スターバックスの様なお洒落な施設ができると、
周辺の住宅にはプラスなインパクトがあり、
ここには数学的な関係があるのではないかと考えています。

当初からこの理論をAIエンジンに組み込んできたというのが弊社のプロダクトです。

こちらはメインプロダクトとは別に
メインプロダクトの信頼性を高める目的で開発を続けているAIエンジンのお話です。

左側は募集物件の写真情報をディープラーニングで解析して、
その間取り情報や築年の推定、室内のクオリティ、リノベーションがあったかどうかを把握するAIエンジンです。

こちらはまだ検証中で、
募集物件に相応する写真が現時点で公開されているかどうかがポイントになります。

間取り情報からデータを立体化して、
実際の位置情報と実物の映像を照らし合わせて日当たりや風通しなどをAIが分析し、
各部屋の室内環境がどのくらい快適なのか、
日当たりはどうなのかを数値化して可視化する技術を持っています。

この技術によって、階数、間取り、面積が同じであれば、
同じ価格、賃料であるというような方程式が崩れ、
ある部屋だけが日当たりが良い場合に
その部屋のみ賃料を高くするといった価格設定が可能になると思います。
今までは当然と思われた値付けを変えていく、そんなことが実現できる技術です。

最後にスキームです。

これはどのAI技術についても言えることですが、
ユーザーとデータが増えれば増えるほど高性能になります。

弊社の大きな特徴として、
現在10カ国を超える国でサービスを提供しておりますので、
日本のデータだけでは発見できないような理論や法則を
ビッグデータ解析で発見することができます。
ここが差別化ポイントだと認識しております。

4)人流データと不動産AI予測データとの関係

ここからは弊社の技術と人流データとを掛け合わせた時に
何が見えてくるのかというチャレンジの第一歩についてお話させていただこうと思います。

ブログウォッチャーさんは、非常に多くの人流データと、
それを解析する高度なテクニックをお持ちです。
他方、弊社は建物や街、ロケーションの評価といった
動きのないデータについての評価が得意です。
両者を掛け合わせれば新しいものが見えてくるのではないかということで、
現在一緒に取り組みをしている途中です。

人が動くことによって街の価値が変わる。

これは歴史的に見ても当たり前だとは思いますが、
今の不動産市場ではこれを証明できておらず、
そもそもそういったデータを扱うこと自体ができなかったのですが、
ようやく技術が追いついてきて自由自在にデータ分析ができるようになりました。
そして今は、予測と結果の関係はないだろうかという探求をし始めたところです。

テーマ1:人流は賃料変動を予測できるか?

その前提で、まずテーマ1、人流は賃料変動を予測できるかというお話をいたします。

まず、弊社のAIエンジンを使って、東京23区の賃料変動を算出しました。
2019年から2022年までの期間で、丁目単位で賃料の平均を出しました。
丁目単位で査定額の平均を取得し、可視化したものが上の画像の3つの図です。

一番左端は1年間(2019年から2000年)で、
真ん中が2年間、右端が今年までの3年間です。
変化が一目瞭然ですが、
東京23区の中心部から周辺に向かって
段々と賃料の上昇率が上がっているということがわかります。

皆さんお気づきと思いますが、2019年はコロナ禍以前の状態であり、
この図はコロナ禍を経て現在に至るまでに賃料がどう変わったのかを表しています。

このように、ベクトルを加えて見てみると、
都心部から郊外に向けて賃料の上昇率が高まっていることが見えてきたと言えます。この傾向に人流データを掛け合わせるとどうなるのか、
というのがこれからのチャレンジの話になります。

その前に、
ブログウォッチャーさんのテクノロジーについて1つ説明をさせていただきます。

人流というとどうしても動いているものをイメージしがちですが、
実は逆の状態である停滞も把握することができます。
これによってブログウォッチャーさんは
どのエリアにどの年代の人が何人くらい住んでいるか
といったことを把握することができます。

こういった技術とデータを
先ほどご紹介した弊社のAIエンジンの算出結果と掛け合わせるとどういうことが言えるかを見ていきます。

上の画像は、
ブログウオッチャーさんの人流データの変化についてのマップになります。

これは右から左へ、2019年から2022年と変化していることを表現しており、
青く見えるところは居住と勤務エリアが同一のユーザーが少ないところ。
赤いところほど居住と勤務エリアが同一のユーザーが多いということを意味しています。
居住と勤務エリアが同一と言うことは、
リモートワーカーや、近辺で働いている人であると推定されます。

右側の2019年の図は、昼間、通勤で中心部に集まっていて、
夜は家に帰るというライフスタイルの人が多いことを表現しているとも言えます。
他方、左側の2022年の図では、
居住地と勤務地が同エリア内にある人が増えています。
これは、コロナ禍の人の動きを如実に表現していると感じます。

先ほどは静的な違いを可視化したものでしたが、
上の画像のように変化率で見ると更に顕著に傾向が現れています。

青いところは、勤務者/居住者、
つまり昼間勤務して夜もそのままそのエリアに収まっているという人の割合を意味しており、
1に近づけば近づくほど、勤務地と居住地が一致しています。
この傾向を見ると、真ん中ほど青い。
つまり、勤務して帰るだけの人が少なくなり、
周辺では居住地と勤務地が一致している人が増えているという傾向があるといえます。

ベクトルで示すと上の画像のようになります。

弊社がAIエンジンで出した算出結果と非常によく似た動きになっており、
人が動いたからこそ街の価値が変わると言えると思います。
今回はまだリサーチを始めたばかりの初期段階で、
細かいタイムスパンでの分析までには至っていないので、
大まかな傾向でしかお話できません。
しかし、これを更に粒度を細かくしてタイムスパンを短くしたうえで、
弊社のAIエンジンでモデルを作成し、
従来ではできなかったスピードで賃料の上昇エリアを予測していけば、
いつかは実現できるのではないかと考えています。

テーマ2:駅から徒歩10分を超えると、賃貸経営に不向き?

続いて最後のテーマになります。

マンション投資をされている方から、
駅から徒歩10分を超えたところで投資しようと思うと
急に金融機関の融資のハードルが高くなる、といったお声を聞いて、
人流データと掛け合わせて何か見えないかということを試みました。

上の図にあるようなステップをたどりました。

まず、お声をいただいたお客様に選んでいただいた
9つの駅に絞って分析をスタートしました。

それぞれの駅から、徒歩10分以内と、
10分以上20分以内で移動できるところに含まれる過去の募集データを収集・集計して、
人流と掛け合わせて傾向を探るといったプロセスで分析してみました。

この傾向を知るために、ここでは契約スピードと概念を仮定しました。

この上の画像の図は、賃貸物件のライフサイクルを示しています。
賃貸マンションにおいて、ある人が入居してその後転出し、
新たな募集が始まり次の入居者の契約が成立して募集が終了する。
こういったライフサイクルの期間が短いほど、借り手がつきやすいと言えます。

逆にライフサイクルが長い傾向がある地域は、
借り手がつきにくい地域であるということが言えます。

ブログウォッチャーさんと弊社では、募集期間を契約スピードと仮定しています。
大量のデータを統計的に分析することで
何かを見つけることができると確信して、こういった仮定をしています。

また、補足ですが、資料に但し書きとして下記2点補記しています。

・募集期間が終了したことを契約とみなしている点
・極端に短い募集期間のものは、異常値としてデータから除外する点

 以上が契約スピードの仮定です。
この概念を元に分析すると、上の画像のようになりました。

左側のマップは9つの駅のどこを分析したのかを示すマップです。
それぞれの駅を中心とした内側の円は徒歩10分圏内、外側の円は徒歩20分圏内です。
今回チャレンジしたのは、
内側の円と外側の円で成約のしやすさに差はあるか、
それは法則や一般的な傾向として証明できるのかといった点です。

分析の最終結果がこのグラフです。

このグラフでは、縦軸は契約日数の差分です。
これは先程の契約スピードの差とお考えください。
縦軸で+になっているところは、駅から遠くても成約しているということになります。

次に、横軸は人流量の差分です。
駅付近での停滞も含めた人流量と、
徒歩10分以上20分以下の人流量をデータ化して、面積で割った値になっています。
その結果、左側の値が小さいほど、駅の近いところと遠いところで人流に差がない。
つまり駅から離れても活気があるということです。

以上の縦軸と横軸をあわせると、
左側に寄っている駅は徒歩10分を超えても募集は早く終了しており、
活気もあるということが言えます。
つまり、結論としては、人の活気がある場所ほど契約スピードが早いと言えます。

さらにブログウォッチャーさんが得意とされる年代別で見ると、
若年層と中年層で傾向が違っているということも発見できました。

左側が若年層のグラフで、傾向は全体のグラフと同じです。
しかしよりスピードが早いということが表されています。
右側での中年層はやはり動きが鈍く、募集がでてもなかなか終了していません。
そもそも引越しの機会が少ないのか、
数字的にもこういった傾向が裏付けられていることがわかりました。

以上を踏まえ、全ての駅で同様の分析を行い、
年代別に細かく示唆を出すことを是非やってみたいと考えています。
またそれと同じように、駅から離れている穴場を発見でき、
投資や融資が絞られているようなケースで
「ここは大丈夫」と判断する際の1つの根拠にすることができるのではないかと考えています。

今回は金融にフォーカスしたお話しをしてきましたが、
開発会社様にもこのデータを活用していただけるのではと思っています。
さらに精度を上げて、
データプロバイダーとして供給していけるようなサービスを検討しているところです。

以上で今回のお話は終了です。

お話した内容につきましては、
弊社まで問い合わせていただけましたら、
今後の進捗状況など含めて回答いたします。

どうもありがとうございました。