近年、観光マーケティングが注目されています。昨今は団体ツアーではなく、個人で自分の好みに合わせた体験をする旅行者が増え、行動パターンが大きく変わったため、従来の集客方法では観光客を呼べなくなってきたことが背景にあります。観光マーケティングとは、地元に観光客を誘致するためのマーケティングのことです。そこで、旅行者の行動に関するデータを集めて分析することで、生のニーズを把握し、施策に生かす観光マーケティングが注目されているのです。ここでは、観光マーケティングの概要と必要なデータ、また観光マーケティングを効果的に進めるポイントについて説明します。観光×人流データ活用事例はここからDL観光マーケティングとは観光庁では、「観光地域マーケティング」と呼び、次のように定義しています。“「観光地域マーケティングとは、自地域を初めて訪れる人や、繰り返し訪問する人(= リピーター)、ひいては地域のファン(= 関係人口)を増やし、地域の経済効果や住民満足度を向上させる好循環を構築するための仕組みづくりを意味します。」”引用元:観光地域づくり法人(DMO)による観光地域マーケティングガイドブック|観光庁観光マーケティングで重要なのは、観光客の行動のデータを集めてニーズを分析・把握し、データドリブンな施策を策定・実行することです。一時的な観光ブームを作るのではなく、長期的な視点でリピーター(ロイヤルカスタマー)を育成して、長く集客するのがポイントです。そのため、これまで主流だった旅行代理店や、マスコミへのアピールに加えて、ビッグデータやAI(人工知能)による分析と予測、WebサイトやSNSを駆使したデジタルマーケティングなどの、幅広い施策の実施が重要視されるようになってきました。日本の観光マーケティングの現状日本では、観光マーケティングはまだ始まったばかりと言えます。大きな理由は観光マーケティングの専門家の不足です。観光マーケティングを行う人材には、地域に関する知識や情報だけでなく、マーケティングやITのスキルが必要です。しかし国内でそういった人材はあまり多くはありません。まずはITスキルを持つ人材を確保し、地域や観光業について知ってもらうことが重要です。観光マーケティングでのデータ活用コロナ禍や観光客の価値観の変化により、近年、旅行者のニーズや旅行スタイルが大きく変化してきました。従来の集客方法では観光客を誘致できなくなってきており、新しい施策が必要になっています。そこを補うのが観光マーケティングです。観光マーケティングにはどんなデータが必要か観光マーケティングには、具体的にはどのような種類のデータが必要なのでしょうか。施策構築のポイントとなるのは、次のようなデータです。どんな人が来ているのか観光客の年齢、性別、居住地、国籍、宗教などの属性何を目的に来ているのか来訪したあとに訪れた場所、滞在時間、宿泊場所どこから来ているのか利用した交通機関、始点・終点どこから来てどこに向かったのか、移動手段は何か利用した交通機関や始点・終点のデータこのようなデータから、観光客のニーズをつかむことができます。では、これらのデータは、どう収集すればよいのでしょうか。観光マーケティングに必要なデータは観光地域データと言い、統計データと旅行者データの2つに分けられます。統計データ観光統計やアンケートなど、観光地や旅行者全体の状況、行動を把握できるデータです。都道府県単位でオープンデータとして提供されているものが多く、どんな人が来ているのか、どこから来ているのか、移動手段は何か、などの概要を把握できます。ただし詳細な行動については把握できません。旅行者データ人流データやSNSなどをもとにしており、旅行者個人やターゲット別の行動やニーズ、し好を知ることができるデータです。観光客が何を目的に来ているのかを分析できます。観光客のニーズをつかむには、このデータが最も重要です。ただし、このデータはオープンデータで提供されていません。収集するには、外部からデータを購入するか、自らデータを収集・蓄積する必要があります。日本観光振興協会の「デジタル観光統計オープンデータ」については下記をご覧ください。「ブログウォッチャーの人流データを活用した観光来訪者数が、日本観光振興協会の「デジタル観光統計オープンデータ」として公表開始〜デジタル観光統計整備検討委員会による有用性検証を経て、全国47都道府県・1,741市区町村分のデータを毎月提供〜」データ活用でできること新しいニーズを持つ観光客を集めるには、現代の観光客に「刺さる」施策が求められます。そのためには、次のような分析が必要です。現状の可視化新しいニーズや旅行スタイルなど、現在の観光客の実態を知るためには、より多くのデータを集める必要があります。特に観光客の行動を分析するためには、行動を可視化できる「人流データ」の収集が不可欠です。観光客ニーズの掘り起こし集めたデータから観光客の行動パターンやニーズを把握します。大量のデータを分析することで、既知のニーズだけではなく、これまで気づかれなかったニーズを掘り起こすことが可能です。また、ニーズを掘り起こすことで、ほかの観光地にはない価値、自分たちの地域でしか体験できないものを発見し、ほかと差別化することができます。これはマーケティング戦略のもとになるものです。データドリブンな施策データ分析によって把握したニーズに合わせて、マーケティング施策の策定や観光コンテンツの開発を行います。これまでの経験や勘ではなく、観光客の行動というデータをもとにして、より合理的かつ成功の可能性が高い施策を策定することが可能です。効果の検証施策を行うだけでなく、どの程度効果があったかを測定します。その結果をもとに施策やコンテンツを改善し、次の施策に生かします。新しい施策をやりっぱなしにするのではなく、効果をきちんと検証し、それをもとに改善を繰り返すことで、より効果の高いマーケティングになります。これらの分析・施策・検証の基盤になるのがデータの活用です。より多くのデータを収集・分析・活用することで、より高い精度で具体的にニーズを把握できます。そのため、観光マーケティングにはデータ活用が不可欠です。さらにマーケティングだけでなく、観光事業全体をデジタル技術とデータの活用により変革しようという取り組みも行われています。これが観光DXです。観光DXについては、次の記事を参考にしてください。観光DXがもたらす新たな観光体験とは?実現には人流データの活用が必須観光マーケティングを成功させるポイントは人流データの活用観光客が何を目的に来ているのか、つまり観光客のニーズをつかむには、人流データやSNSで発信された情報の活用が欠かせません。人流データとは、人がどこからどこに移動したかというデータです。そこから、次のような情報を取得できます。ある時刻の、ある地点での人口密度その地点での人びとの滞在時間時系列での変化人が多く使っている移動手段人流データは、上記のようにさまざまなことがわかる活用範囲の広いデータです。人流データを取得・分析することで、観光地全体で人の大きな動きを把握することも、施設や店舗ごとに観光客の行動を把握してニーズを分析することもできます。人流データを活用した観光マーケティングの事例3選人流データを使って観光マーケティングを行っている事例を3つ紹介します。埼玉県川越市川越市では、インバウンド誘致とオーバーツーリズム対策という、相反する課題を抱えています。それらの課題を解決するため、川越まつりという大きなイベントの前後2カ月間、試験的に人流データを取得・蓄積することにより、データドリブンな施策を策定しています。結果として、時間帯による観光客の行動の変化や、インバウンド客の行動を可視化でき、施策策定のもととなるデータを取得できました。栃木県庁栃木県では、これまで観光客の数や属性、行動を知るための調査は年に1回しかできませんでした。費用も手間もかかるためです。しかし人流データを取得することで、よりスピーディーにデータを取得し、長期間蓄積して分析できるようになりました。さらに、観光客の性別・年代・居住地などの属性や詳細な行動がわかることで、より効果的な集客・誘致が可能になると期待されています。岐阜県下呂温泉下呂温泉では、東日本大震災後に観光客が激減しました。観光客を誘致するため、「誘致宣伝委員会」の一員である下呂温泉観光協会が毎月、来訪した観光客のデータを収集し、それをもとに着地型体験プログラムの企画・提供や電子クーポンの発行を行っています。さらに、そのデータを取得することで、より具体的な観光客のニーズを把握することが可能なため、それをもとに料金を最適化したり、観光客へのアプローチを改善したりして効果を上げています。沖縄県一般財団法人沖縄観光コンベンションビューローおよび琉球大学の研究室は、株式会社ブログウォッチャーによるデジタル観光人流モニタリングサービス「おでかけウォッチャー」を活用して、県外から沖縄県への観光客の人流データを分析しました。それによりまとめた観光マーケティングレポート「おきなわ観光地域カルテ」は、市町村別の観光動態を月別レポートとして可視化しています。今後、沖縄県全域の観光分析のため、データの活用が大いに期待されています。詳しくは「ブログウォッチャー、「おでかけウォッチャーを活用した観光マーケティングレポート「おきなわ観光地域カルテ」プロトタイプ版の提供を開始〜OCVB・琉球大学3研究室と共同で開発〜」をご覧ください。まとめ:観光マーケティングには十分な質と量のデータを集めることが重要これからの観光地経営には、観光マーケティングが必須となるでしょう。観光マーケティングによって、観光客の潜在的な、あるいは顕在化したニーズを把握できます。それによって、より観光客を引きつける体験やコンテンツの提供が可能となります。また、ほかの地域とは異なる自地域の強み・弱みを把握してブランディングすることができ、リピーターを確保することで観光地として成長できるでしょう。そのためには旅行者データ、特に目的に合わせて十分な質と量のデータを収集し、分析することでニーズを把握する必要があります。人流データはオープンデータとして入手できるものは少なく、さらに人流データを把握・分析するためには、ビッグデータを取得するための設備と、専門的な知識やノウハウが必要です。そこで、人流データの取得・分析・活用については、株式会社ブログウォッチャーのおでかけ研究所が展開するサービスをおすすめします。おでかけ研究所は、利用者の許諾が得られた位置情報ビッグデータを活用し、地域の観光や交通などの課題を解決するためのDX推進をサポートしています。デジタル観光統計 | 株式会社ブログウォッチャーまた、観光客を誘致するための人流データ活用については、次の資料もご覧ください。業界別活用事例「観光×人流データ活用」 | 株式会社ブログウォッチャー