現実世界ではなかなか再現できない物や事象を、バーチャル空間で再現し、仮想的な模擬実験を行う。先端技術を駆使したこのような仕組みは、危険性が少なく、またコストも削減できるためビジネスの現場で多く取り入れられてきました。特に近年はデジタルツインという手法が話題になっています。デジタルツインとはどのような仕組みで、従来広く用いられてきたシミュレーションや、同じ仮想空間であるメタバースとは何が違うのでしょうか?今回はデジタルツインの概要からシミュレーションなどとの違い、そのメリットなどについて解説していきます。デジタルツインとはデジタルツインとは、リアル(物理)空間にある情報を、IoT(モノのインターネット)デバイスやセンサーなどで収集し、デジタル処理を施したうえで仮想空間に再構築、デジタルの力でリアル空間をサイバー空間上に再現する技術です。リアル空間の物や事象を忠実にコピーしてサイバー空間上に再現するので、双子(ツイン)の意味からデジタルツインと命名されました。デジタルツインの特徴は、よりリアルな物や事象をリアルタイムに再現できることでしょう。この点が従来のバーチャル技術とはもっとも異なっているところです。デジタルツインでリアルに、またリアルタイムに物や事象をサイバー空間に再現することで、精度の高いシミュレーションや疑似体験が可能になります。従来のシミュレーションやメタバースとの違いリアル空間の物や事象をサーバー空間に再現する、というとシミュレーションやメタバースを思い浮かべる方も多いでしょう。デジタルツインとこれらはどのように違うのでしょうか?まずデジタルツインとシミュレーションとの違いですが、シミュレーションはリアル空間を想定しサイバー空間に人の手で、もしくはプログラムで物や事象を再現する技術です。一方デジタルツインは、リアル空間とサイバー空間が連動して再現されます。シミュレーションの場合、IoTデバイスやセンサーからの情報をリアルタイムで使うことなく、物や事象を再現していることがほとんどなのです。デジタルツインとシミュレーションは、リアル空間とサイバー空間がリアルタイムに連動するか否かという点で異なります。またメタバースも、サイバー空間を使うという点はデジタルツインと同じですが、シミュレーションと同様、必ずしもリアル空間と連動するわけではありません。一方メタバースには、現実には存在しない世界観も表現できる特徴があります。メタバースの役割は、リアル空間の物や事象を忠実に再現するというものではなく、サイバー空間でのコミュニケーションが主な役割だといえるでしょう。デジタルツインのメリットではデジタルツインが持つ「リアルな物や事象をリアルタイムに再現できる」という特徴はどのようなメリットを生むのでしょうか。精緻な仮説検証やシミュレーションが可能になるデジタルツインは、今までのシミュレーションのように、あらかじめ設定した数値やプログラムで事象を再現するのではありません。現実のデータをIoTデバイスやセンサーなどから収集し、サイバー空間に物や事象を再現するので、データや情報をリアルタイムに取得・再現も可能になります。これにより精緻な仮説検証や、現実により近いシミュレーションが行えます。コスト削減リアルに近い精緻な事象再現を行えれば、本来は複数回のテストを経て収集するデータを仮想的に、そして容易に得ることができるようになります。デジタルツインであれば、大規模なテストやコストのかかるテストを行う必要もないので、コストを削減することができます。また試作品を多く作る必要もないので、これもコストや資源、時間の節約につながります。リスク低減起こりえる事象をあらかじめサイバー空間で再現することにより、対処方法などを検討しておけます。このような対処方法の検討は従来のシミュレーションでも行えるものですが、デジタルツインであればより正確に予測ができます。期間短縮精緻なシミュレーションや試行錯誤を行っておくことで、製品の開発期間を短縮できます。また人材の研修などに応用すれば、より現実感のある状況設定が可能となるので、技術習得も容易で確実になることでしょう。品質の向上製品に起こりえる事象をあらかじめサイバー空間で検証しておくことで、試作を繰り返すことなく製品の品質を向上させることができます。たとえば製品の壊れやすい部分や、金属や材質などが疲労するまでの時間を正確に把握しておくことで、保証の期間や部品交換のタイミングを正確に把握することができます。設備保全あらかじめ設備にIoTセンサーを組み込んでおくことで、トラブル時にはリアルタイムにデータを収集し原因を把握できます。収集したデータで事象をサイバー空間に再現し、実際の修理までに部品を用意しておくなど迅速な対処が可能になります。アフターフォロー製品の出荷後の状態をあらかじめ再現しておくことで、起こりえる事象を正確に把握することができます。これにより、トラブルが発生したときなどは、迅速なアフターフォローが行えるようになります。迅速で的確なアフターフォローは、顧客満足度の向上にも寄与します。デジタルツインの活用方法 それでは最後にデジタルツインの活用方法(活用事例)を紹介しておきましょう。3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化プロジェクト国土交通省は2020年から、日本全国の3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化プロジェクト「PLATEAU(プラトー)」を推進しています。このプロジェクトには、多くの地方公共団体や民間企業、研究者、エンジニア、クリエイターらが参加し、既存のデータからデジタルツイン技術を使って3D都市モデルを生成することで、これからの時代に必要な都市の可能性を模索しています。このプロジェクトを通じて作成された3D都市モデルのデータは、オープンデータとして誰もが自由に活用することができます。また東京都でも同様に、都市の3Dモデルを作成する「デジタルツイン実現プロジェクト」を展開しています。東京都は「3D都市モデルやインターフェースが整備・継続的に更新され、”全て”の対象分野において都市の”何らかの”データが都・企業・都民の意思決定、都の政策立案に活用できる、可変性を持った仕組みが構築されている状態」を完全なデジタルツインと定義し、この結果を都政のQoS(Quality of Service)のアップグレードに活かして、都民の生活の質の向上を目指すとしています。製造現場でのデジタルツイン情報通信や交通、防衛、生産設備、家電製品等の分野で、製造とシステム・ソリューション事業を幅広く展開するドイツの電機メーカー、シーメンスでは、すべての製造機械のコンセプト設計から制御設計、立ち上げ、製造、保守までを、データ連携させデジタルツインを実践しています。製造機械の開発工程すべてでデータ連携を行うことによって設計の標準化が可能となり、開発期間を30%短縮、新製品の早期開発を実現してコスト削減につなげています。災害対策でのデジタルツイン活用日本の総合電機メーカー富士通は、デジタルツインを活用して仮想空間にリアルなダムを再現。ドローンで撮影した画像から、地形やダムの形状変化、水位、上流の河川の情報、ダムが放出した水の推移などを、リアルタイムで確認しています。これらの情報はすべて5G回線を通してリアルタイムでシステムに送られ、地震や災害でダムが決壊した場合のシミュレーションや、防災対策に役立っています。まとめ: リアルな情報をリアルなまま再現するデジタルツインデジタルツインは、リアル空間にある情報をリアルなまま、またリアルタイムでサイバー空間に再現する技術です。今まで以上に精緻で正確な事象がサイバー空間で再現できれば、コスト削減や品質の向上、リスクの低減が可能になります。製造現場や都市計画ではすでにデジタルツインの活用が始まっています。ぜひあなたのビジネスにも活用を検討してみてはいかがでしょうか。%3Ciframe%20width%3D%22560%22%20height%3D%22315%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2F_63ZEb8bHC8%3Fsi%3Dy3ouuCTYLUxlJYu3%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%3B%20web-share%22%20referrerpolicy%3D%22strict-origin-when-cross-origin%22%20allowfullscreen%3D%22%22%3E%3C%2Fiframe%3E