スマートツーリズムは、ビッグデータやIoT、VR、ARなどの先端デジタル技術を活用し、観光地の課題解決や観光体験の質の向上を目指す取り組みです。国内外で導入が進んでおり、それぞれの地域特性やニーズに合わせて多彩なサービスが展開されています。スマートツーリズムの考え方を導入することで、地域は観光客の動向を的確に把握でき、混雑緩和や効率的な誘導が可能となります。また、観光客に合わせた情報提供や新たな体験価値を創出することで、持続可能な観光地づくりや地域経済の活性化が期待されています。スマートツーリズムとはツーリズムは観光や旅行を意味し、90年代のインターネット普及以降、観光案内のデジタル化が進んできました。消費者のニーズが多様化し変動しやすい観光業界において、そうした要望を的確に捉え対応することは極めて重要です。そこで、最新のデジタル技術を駆使して多様化する社会や来訪者のニーズに応える取り組みが「スマートツーリズム」です。スマートツーリズムは、例えば拡張現実(AR)を活用し、失われた歴史的景観の再現や多言語対応の案内表示など、新たな付加価値を提供しています。またIoTやクラウドの技術を活用することで、観光客に適時・適切な情報を提供することが可能です。観光地の混み具合や交通状況をリアルタイムに把握できれば、観光の予定を再検討したり、観光地へのアクセス方法を変更したりといった調整が可能になるのです。観光地としても、来訪する観光客の数が可視化されることにより、観光スポットや店舗における人員の配置や土産物・食材などの商品在庫の調整を行えます。スマートツーリズムが登場するまではスマートツーリズムという革新的な観光の形態が登場する以前、観光産業におけるデジタル化は段階的に進展してきました。1950年代に航空券の予約がオンラインシステムで可能になったことを皮切りに、ホテルや観光アクティビティの予約もインターネット経由で行われるようになりました。この時期の技術革新は、主に予約の効率化や利便性向上に留まっていたと言えます。その後の数十年で情報処理技術の進歩に伴い、観光分野におけるデータの収集と分析が可能となり、観光客の行動パターンやニーズを詳細に把握できるようになったのです。スマートフォンの普及によりリアルタイムの情報提供が拡充され、地図や交通情報、観光スポットの案内などが手元で確認できるようになりました。これらの進展は観光体験のパーソナライズ化や効率化を促しましたが、観光客や地域資源の動態を総合的かつ即時に管理する仕組みはまだ不十分で、混雑や資源の過剰利用といった問題も課題として存在していました。こうした背景を踏まえ、さらに高度な情報技術を統合し、観光客や地域側双方の課題解決を目指す形でスマートツーリズムの概念が発展していったのです。スマートツーリズムで期待できる効果とはスマートツーリズムがもたらす効果は多岐にわたり、観光業の課題解決から新たな価値創出にまで及びます。まず、混雑緩和とオーバーツーリズムの抑制が顕著なメリットです。例えば、観光客の位置情報や交通データをリアルタイムで分析し、混雑の度合いを事前に知らせることで、訪問時期やルートの最適化を促せます。これにより観光資源への過度な負荷が軽減され、地域住民との共存も図れます。さらに、観光地の業務効率化にも寄与します。人流データを活用してスタッフの配置や物流の調整を行うことで、サービスの質が均一化し、経営資源の無駄を削減することが可能です。加えて、コロナ禍で注目されたオンラインと現地体験の融合も重要な効果です。VRやAR技術により、現地に行かずとも文化や景観を疑似体験できることで、旅行への関心を持続させることができ、アフターコロナの観光需要回復につながっています。こうした技術の活用は、環境負荷の軽減や遠隔地への観光促進にも寄与しており、持続可能な観光の推進に大きく役立っています。結果として、スマートツーリズムは観光客にも地域にもメリットをもたらし、観光業の質的向上と長期的な発展を支える基盤となっています。スマートツーリズムで活用されるデジタル技術スマートツーリズム実現のために使われる最先端のデジタル技術には、以下のようなものがあります。・ビッグデータビッグデータとは、IoTセンサーやAIによる機械学習で集められた巨大なデータ群を指します。ビッグデータをスマートツーリズムに活用することにより、観光客のし好や行動の傾向を含む最適な情報を観光地に提供できるようになります。なかでも人流データ(人の移動をリアルタイムで可視化するデータ)を活用することにより、道路の渋滞対策や公共交通の最適化、観光客の誘導や施設の効率的な活用などが可能になります。*株式会社ブログウォッチャーでは、観光領域向けのサービス「おでかけウォッチャー」を展開しています。このサービスでは、利用者の許諾が得られた位置情報ビッグデータを活用し、地域の観光や交通などの課題を解決するためのDX推進をサポートしています。デジタル観光統計|株式会社ブログウォッチャー*2023年10月12日より、「デジタル観光統計オープンデータ」と連動した観光来訪者数の分析「デジタル観光統計オープンデータ分析」を提供開始しています。「観光人流モニタリングサービス「おでかけウォッチャー」における日本観光振興協会「デジタル観光統計オープンデータ」お試し版と連動した観光来訪者数の提供開始について」・IoTIoT(Internet of Things)とは「モノのインターネット」という意味で、インターネットを活用したデジタル技術連携全体を表す言葉です。スマートフォンやデジタルデバイスを、インターネットを介してクラウドや産業機器、各種センサーなどとつなぎ、各種サービスを使いやすくする技術だと考えればよいでしょう。例えば車両のセンサーやGPSとスマートフォンのアプリを連携させることで、観光バスの現在位置の確認や到着時刻の予測などに活用することができます。・VRVR(VirtualReality)は、仮想現実と訳されます。VR技術とスマートフォン、スマートグラスを組み合わせて使えば、仮想のデジタル空間で事前に旅行先の名所や魅力的な場所をリアルに体験することができます。・ARAR(AugmentedReality)は拡張現実と訳されます。ARはスマートグラスやスマートフォンを使って、現実の世界に仮想の世界を重ね合わせることができる技術です。AR技術を使えば、スマートフォンの画面に多言語対応のルート案内を載せることや、今では失われてしまった歴史遺産を映し出すことが可能になります。・5G通信IoT、VR、ARのような技術をストレスなく、また効率的に使うためにはデジタルデバイスとサーバー(コンピューター)、クラウドとの高速通信が必須となります。スマートツーリズムの実現には、5Gといった高速・大容量で多接続、低遅延(リアルタイム)のインフラ整備が欠かせません。こうした先端技術を活用したスマートツーリズムの実現は、インバウンド需要の増加で問題となっているオーバーツーリズムを含む観光地の諸問題の解決につながると言われています。オーバーツーリズムについては以下をご参考にしてください。「オーバーツーリズムは何が問題?位置情報は対策のひとつになる」日本でのスマートツーリズム事例紹介日本国内では、スマートツーリズムの導入により観光の質が向上しています。例えば、ある自治体では人流データを活用し、観光客の動きをリアルタイムで把握。これにより混雑緩和や効率的な誘導策を実施しています。さらに、デジタルサイネージやスマートフォンアプリを使った観光案内も広がり、多言語対応の情報提供で外国人旅行者の利便性も高められています。加えて、大学や地域の共同研究によるデータ分析も進み、観光需要に応じたプロモーションが精度よく行われています。これらの取り組みは、地域経済の活性化に寄与するとともに、持続可能な観光環境の構築に役立っています。南紀白浜の顔認証観光案内板和歌山県の南紀白浜で導入された顔認証観光案内板は、最新のデジタル技術を活用した新しい観光サービスの一例です。利用者は事前に顔のデータを登録することで、空港や観光スポットに設置された案内板に顔を認証させるだけで、個人に合わせた観光情報が提供されます。例えば、ホテルやレストランのおすすめプランや周辺観光地の案内がリアルタイムで表示されるため、効率的かつ快適な旅を体験できます。実際に南紀白浜では、特定のホテルのチェックイン手続きと連携して使用する例もあり、顔認証によってスムーズに手続きが進むとともに、宿泊客ごとにパーソナライズされた観光プランの提案も可能になっています。ホテル内や周辺施設の入場管理や支払いサービスなどへの応用が期待されている注目の事例です。沖縄都市モノレールのARアプリ観光ガイドマップモノなび沖縄ARは、沖縄都市モノレール「ゆいレール」の観光ガイドブック「モノなび沖縄」と一緒に使う、ARの技術を用いたアプリです。このアプリを立ち上げ、スマートフォンを「モノなび沖縄」の冊子の中の特定の写真にかざすと、ゆいレールからの車窓動画や、現在地から目的施設までのルートを確認できます。これは、従来の紙媒体のガイドブックとデジタル技術を融合させたスマートツーリズムの例といえます。またガイドブックとアプリ、ウェブサイトは、日本語、英語、韓国語、中国語(簡体字・繁体字)の5か国語に対応しています。京都市観光協会の京都観光快適度マップ観光地における混雑や感染症対策は重要な課題であり、快適な観光環境の整備が求められています。京都市と京都市観光協会は、この課題に対応するために「京都観光快適度マップ」を提供しています。このオンラインマップは、観光地の混雑具合を5段階の快適度で分かりやすく表示し、リアルタイムのライブカメラ映像も閲覧可能です。主要な観光スポットの混雑状況を事前に把握できるため、観光客は訪問時間を調整して混雑を避けることができます。2023年の調査では、京都市内の特に人気の高いエリアでは休日や祝日に人出が通常の2倍以上に増加する傾向が見られ、快適度マップの利用により観光客の分散が促進されました。この仕組みは、膨大な人流データの分析に基づいており、混雑のピーク時間帯を正確に予測することができます。観光客だけでなく地元の事業者も、マップにより来訪者数の変動を把握できるため、サービス体制の最適化やスタッフ配置の効率化が可能となっています。こうした双方向の情報共有は、持続可能な観光地運営を支える重要な要素です。今後も、この「京都観光快適度マップ」はスマートツーリズムの一環として、デジタル技術を活用しながら観光地の課題解決に寄与し続けることが期待されています。福岡県糸島市の観光分析の共同研究(九州大学)九州大学と糸島市の共同研究において、観光動態分析システム「おでかけウォッチャー」を活用した、人流データと検索データをかけ合わせたデータの分析を行っています。「おでかけウォッチャー」により、どんな検索キーワードを使ってそのスポットを訪れたのか、なぜそこに人が集まったのか、なぜこの時期に来ているのかという分析が可能になり、特に観光客は「食を目指して糸島へ来ている」ということがデータとしてはっきり出ていたため、今後はますます食をメインとした観光プロモーションを行おうと方向性を捉えられるようになりました。九州大学と糸島市の共同研究について、詳しくは下記の記事をご覧ください。「大学と自治体で連携したビッグデータの活用 糸島市との共同研究における観光人流の見える化」世界のスマートツーリズムの事例紹介海外では、日本よりも早くスマートツーリズムの研究や実践が進められてきました。特にヨーロッパでは、地域特性に応じたスマート技術の導入が活発です。また、デジタルツールを活用した多言語対応や、持続可能な観光の推進に向けた環境負荷の軽減も重視されています。これらの先行事例は、日本を含む各国のスマートツーリズムの発展に向けて重要な示唆を与えています。コペンハーゲン(デンマーク)における観光客向けシティカードアプリコペンハーゲンでは、観光客向けに便利なデジタルシティカードアプリが導入されています。このアプリは、美術館や観光施設、公共交通の利用を一つにまとめており、スマートフォン上で購入・管理が可能で、QRコードを表示するだけで入場や乗車ができ、従来の紙カードのような窓口での手続きが不要となっています。こうしたデジタル化により、観光客は到着後すぐにサービスを利用でき、施設側も運営の効率化を実現しています。利便性向上と業務負担軽減を両立させる仕組みとして注目されています。ヘルシンキ(フィンランド)におけるバーチャルヘルシンキヘルシンキでは、デジタル技術を活用した観光体験の充実に向けて「バーチャルヘルシンキ」プロジェクトが展開されています。これは360度の視点で市内の様々なスポットをオンライン上で体験可能にする取り組みです。多様なユーザーが場所を問わず観光を楽しめるとともに、実際の訪問に代わる新しい観光スタイルとして注目されています。都市の文化や景観のデジタル化により、障がいのある人や遠隔地の利用者も参加できる環境が整っています。このような試みは、観光のアクセシビリティ向上とともに、環境負荷の軽減にも寄与しています。さらに技術の発展により、リアルな体験感の向上や情報提供の多様化が進められています。まとめ:スマートツーリズムの実現には観光客の行動把握が重要スマートツーリズムの実現には、観光客の属性や行動、し好性を的確に把握することが不可欠です。デジタル技術の進化により、観光地では様々な情報がリアルタイムで収集され、データを分析することで旅行者のし好や動向が把握されます。特に人の流れの把握と制御は、観光の質と観光資源の効率化を大きく左右することになります。デジタル技術とビッグデータの活用で、より効果的なサービスの提供や、観光体験のカスタマイズが可能となるでしょう。人流データの取得・分析・活用については、株式会社ブログウォッチャーのおでかけ研究所が展開するサービスをおすすめします。おでかけ研究所は、利用者の許諾が得られた位置情報ビッグデータを活用し、地域の観光や交通などの課題を解決するためのDX推進をサポートしています。弊社サービス「デジタル観光統計」とはブログウォッチャーでは、許諾を得て全国から集められた3000万MAUの人流データを活用し、以下のような観光DXを支援しています。旅行者の行動分析とパターン把握新しい観光ルートやサービスの開発観光地の混雑状況の可視化と分散化対策マーケティングやプロモーションへの活用すでに複数自治体・観光協会・DMOへの導入事例もあり、多くの地域で訪日外国人の戦略策定・施策検討に活用いただいております。詳しいサービスについては、以下をご覧ください。詳しく知りたい方向けに、無料のホワイトペーパーを配布中です。「デジタル観光統計」サービス紹介資料