『電力×需要予測〜応用編〜』はこちらダイナミックプライシング(Dynamic Pricing)とは、商品やサービスの価格を需要と供給の状況に応じてリアルタイムに変動させる価格設定戦略をいいます。リゾート地にあるホテルの宿泊費や航空料金には以前から導入されていましたが、近年ではさまざまな商品やサービスの価格設定戦略に用いられています。中でも近年注目されているのが、電力のダイナミックプライシングです。さまざまなメリットがあることから注目されているのですが、課題もあります。今回は、電力のダイナミックプライシングが注目されている背景や最適な価格設定を行うためのポイントなどについて解説していきます。電力のダイナミックプライシングとは?ダイナミックプライシングとは、需要と供給の変化に合わせて価格をリアルタイムに変動させる方法のことです。一般的な電力のダイナミックプライシングは、電力需要が増える時間は電力料金を割高に、需要が減少する時間は割安に価格を設定する方法です。このようなダイナミックプライシングを実施することで、電力を使う側は電気料金の節約、電力を供給する側は電力設備や事業の効率的運用が可能になります。電気料金で既に導入されている「時間帯別料金」は、価格があらかじめ決まっているため、厳密にはダイナミックプライシングとは言えません。電力のダイナミックプライシングが注目される背景近年になってこの価格戦略が注目を浴びています。次に電力のダイナミックプライシングが注目される背景について見ていきましょう。需要と供給を最適化させる必要性電力の需要は、季節や時間帯によって大きく変動します。一般的に真夏の昼間は電力消費量が多くなり、電力需要が高いとされています。電力会社はこの需要のピークに合わせて発電・供給設備を整備しておく必要がありますが、オフピーク時には設備の能力が過剰となり無駄が発生してしまいます。こうした設備への過剰投資を抑えるためには、需要の平準化が必要です。ダイナミックプライシングは、需要を平準化させ、電力の需給バランスを最適化するための有効策として期待されています。また2011年に発生した東日本大震災の影響によって福島の原子力発電設備が大きな被害を受けました。これに関連して日本国内にある一部の原子力発電所の稼働率が下がっています(停止中もしくは廃止措置中)。電力の需給バランスを維持するためには、電力供給はますます需要のピークコントロールと供給の平準化が必要になっています。再生可能エネルギーの利用促進太陽光や風力発電といった再生可能エネルギーは、CO2を排出しないため、地球温暖化対策として利用促進が求められています。しかし、天候や日照時間などの自然条件によって発電量が変動しやすいという特徴があります。そのため、電力会社が再生可能エネルギーの利用を拡大するためには、電力需給のバランスを保つことが課題となっています。ダイナミックプライシングは、需要と供給の状況に合わせて価格を変動させ、需給のバランスを調整することで、発電量が不安定な再生可能エネルギーの利用を促進する可能性があります。エネルギー効率の向上電力会社では日中の電力供給に備え、夜間でも発電を続けています。現在の技術では電力の貯蔵は難しいため、電力会社にとって需要少ない夜間電力の利用促進を図ることが大きな課題となっています。ダイナミックプライシングにより夜間の電力需要を刺激できれば、夜間電力が無駄なく有効活用され、エネルギー効率を向上させることができます。電力市場における競争激化2016年には旧一般電気事業者により独占されていた電力小売が自由化されました。さまざまな業種の企業が電力の販売に参入し、電力市場は競争が激化しています。この競争環境の中で、電力会社は、顧客のニーズを満たすために、より多様なサービスや料金プランを提供する必要に迫られています。ダイナミックプライシングはその有効な手段として注目されています。電力におけるダイナミックプライシングのメリット電力のダイナミックプライシングには、電力の供給側と消費側の双方に以下のようなメリットがあります。電力会社(供給側)ダイナミックプライシングによって電力の需要と供給を最適化できれば、電力会社は過剰な設備投資を抑制することができます。それに伴い運用コスト、例えば燃料費や管理費などを最小限に抑えることが可能です。また、電力需要の高い時間帯には、電力料金を割高に設定することができるため、収益の向上が期待できます。消費者側(需要側)ダイナミックプライシングは消費者に電力利用の選択肢を増やすことができます。例えば、ある時間帯の電気料金が高くなるとわかれば、電力利用を調整することで電気料金を節約できます。電力のダイナミックプライシングが抱える課題電力のダイナミックプライシングにも課題はあります。電力のダイナミックプライシングにおいて、一番の課題は需要の予測が困難なことです。従来から行われている時間帯別料金とは異なり、ダイナミックプライシングでは使用量を予測し、需給バランスに応じてリアルタイムに電力料金を変動させていきます。このような仕組みのダイナミックプライシングでは、需要予測の精度が一番の問題となります。もし需要予測がずれて価格が最適化されないと供給側は利益減となり、消費側は利用を控えるか、価格設定に不信感を抱く可能性があります。ダイナミックプライシング最適化のポイント電力のダイナミックプライシングにおいては、価格を最適化するためには、電力の需要予測を高精度に行うことが重要です。精度の高い需要予測には膨大なデータが必要です。たとえば事業者の社内に蓄積された需要実績や販売実績、顧客データ、そして天候の予測データや時期(季節、時間など)の特徴を記録したデータなどです。しかし、電力の需要は、さまざまな要因によって変動するため、精度の高い予測は容易ではありません。そこで活用されるのが、近年注目されるAI(人工知能)です。AIを使って膨大なデータの分析と調整を繰り返すことで、需要予測の精度は高めていくことが必要です。需要予測については下記の記事で詳しく説明しています。 →電力業界の需要予測に必要なデータとは?分析精度を向上させる4つのポイント人流データ活用でより精緻な需要予測が可能にスマートフォンの位置情報データから取得できる「人流データ」も、需要予測の精度を高めるデータとして注目されています。人流データとは、人の流れを計測したデータであり、人が「いつ」「どこから」「どの場所」へ移動しているのか、また特定の場所・時間にどれだけ滞在したかを把握することができます。近年急速に普及したスマートフォンの位置情報データを活用しており、さまざまな場面で活用が進んでいます。電力需要は、人の行動と密接に関係しています。例えば、人の多い場所、人の集まる場所には多くの電力が必要です。また、人の移動にも電力が必要です。人流データをさきに述べた需要予測に必要なさまざまなデータと組み合わせることで、電力需要の変動をより正確に予測することができるでしょう。人流データについては下記の記事で詳しく説明しています。→人流分析で何ができる?活用の場はどんどん広がっているまとめ:高精度な電力需要の予測には人流データをはじめ膨大なデータの活用が必須! 電力のダイナミックプライシングは企業側、消費側共にメリットのある価格設定の方法ですが、最適なダイナミックプライシングを行うためには、電力の需要と供給のバランスを正しく把握し、電力需要を高精度に予測することが重要です。精度の高い予測を行うためには、複数のデータの活用が必要となります。株式会社ブログウォッチャーでは、需要予測に役立つ「人流データ」をさまざまな分析に活用できる位置情報データプラットフォーム「Profile Passport」を提供しています。興味がおありの方はこちらからサービス内容をご確認ください。 → Profile Passport DMP | 株式会社ブログウォッチャー『電力×需要予測〜応用編〜』を読む