筆者自己紹介名前:えいじ会社:ブログウォッチャー所属:データサイエンスグループ趣味:サッカー出身:広島県東広島市2024年4月、グループ会社から異動制度を利用して入社しました。位置情報データを扱い、主にはみなさんが移動しやすくなるようなまちづくりに取り組んでいます。はじめにこの分析は、私がブログウォッチャーに入社した、最初の研修で実施したものです。一連の基礎的な研修を受けた後、「好きな場所を自分なりの切り口で分析して発表」というお題が渡されました。そこで私は、出身地の広島に新しくできたサッカー専用スタジアム「エディオンピースウイング広島」について分析することにしました。このスタジアムはサンフレッチェ広島の本拠地として使われています。このスタジアムができる前のスタジアムは、広島市内からモノレールで40分ほど、ツキノワグマも出没するような山奥にありました。それが大都会広島のど真ん中に移転したわけで、試合後に遊びに行く場所も多く、周辺にもたらす好影響も多いのでは?ということで、スタジアム新設に伴う経済効果について分析していきます。新スタジアム ピースウイング広島2024年、広島に新しいサッカー専用スタジアムが完成しました。分析当時はオープンしたばかりでしたが、シーズンを終えてみると常に満席近く、収容率ランキングでJリーグトップとなりました。▼新旧スタジアムの立地(google mapsより作成)新スタジアムは市中心部に立地し、広島駅からも歩ける他、JR・路面電車(赤線)・モノレール(オレンジ線)・バスなど様々な交通手段でアクセス可能。原爆ドームや広島城も徒歩圏内。▼新旧スタジアム比較。広島市中心部のサッカー専用スタジアムになり、アクセスと臨場感が大幅に改善。たくさんの多大な努力のおかげで完成し感謝しているが、監督の言葉を借りれば、ずいぶん小さくなったことは市のご担当者様に文句申し上げたい。サンフレッチェ広島について純粋な位置情報への興味から読んでくださっている方々にはサッカーに詳しくない方もおられると思うので、広島を本拠地にするサッカーチーム「サンフレッチェ広島」についても簡単に説明します。チーム名の由来サン(まさかの日本語、3、三)フレッチェ(イタリア語で「矢」)→『三本の矢』毛利元就の、1本2本だと折れるけど3本だと折れないっていうあれが由来です。Jリーグができた時(1993年)の初期メンバーの1つ。最初は10チームで始まったので、オリジナルテンと呼ばれます。今はリーグもJ1〜J3まで3つあり、それぞれ20チームの合計60チームが戦っています。今年(2024年)は最終節までJ1優勝を争ったものの、惜しくも2位。ただ日本で2番目に強かったチームです。一地方クラブではありません。ユニフォーム(チームカラー)は紫色新旧スタジアムで比較しよう!それではいよいよ、新スタジアムによる経済効果を推定していきます。新スタジアムによる経済効果は、旧スタジアム時代からどのくらい変化したかで測ります。今回比較する範囲は以下の通りです。原則試合当日(観戦ついでに翌日も観光、などの経済効果は除きます。やろうと思えば考慮できますが、研修で想定される工数を超えるため、割愛しました)遠方からの移動は、前日時点で遠方にいたかどうかで判断(いつ現地入りしたかは問わない)人の動きから読み取れるもの(グッズ販売など、人の動きだけでは推定が難しいものは除外しています。)また、馴染みのない人が「どっちだっけ」と混乱しないよう、スタジアムの名称は「旧スタジアム」「新スタジアム」と表記します。比較する試合新旧スタジアムともに、シーズンのホーム開幕戦で比較します。旧スタジアムは2023年2月18日(土)の広島vs札幌、新スタジアムは2024年2月23日(金・祝)の広島vs浦和です。どちらも14時キックオフです。旧スタジアム 2023/2/18(土) 14:03キックオフ 広島vs札幌当日の試合時間にスタジアムにいた人の動きを可視化すると下のグラフのようになります。ログ取得の時間帯別に色をつけており、以下同じ色分けを使用します。道路網がはっきり見える他、試合後はアウトレットや市街地に多くの点が見られます。▼旧スタジアムホーム開幕戦の当日の行動ログ。試合時間にスタジアムにいた人の1日のログを可視化した。試合後にアウトレットや市街地に人が点在している様子がわかる。▼ログの時間帯ごとの色分け新スタジアム 2024/2/23(金・祝) 14:06キックオフ 広島vs浦和こちらもアウトレットや市街地に多く点がありますが、アウトレットに集まる点は旧スタジアムのときより少ないことがわかります。市街地の点の密度が全く違っており、新スタジアムでは多くの人が、試合前後の時間を市街地で過ごしていることがわかります。交通にも変化が見られ、全体的に西側の道路交通が減り、南部や東側の交通が増えていることがわかります。▼新スタジアムの行動ログ。こちらも試合時間にスタジアムにいた人の1日のログを可視化した。データのチェックまずは各試合日での来場者数を、Jリーグの公式記録から確認します。▼Jリーグ公式発表によると、新スタジアムになったことで2倍の観客動員数を実現している新スタジアムになったことで、来場者数が倍増しています。もうこの時点で新スタジアムの効果がはっきり見えます。比較している両日とも、ブログウォッチャーの位置情報データでも同じ傾向が見られました。試合後の市街地来訪人数試合後に広島市街地に来訪した人数を計測します。これ自体は直接経済効果を測るものではありませんが、街中でどのくらい人が増えたのかは気になるところです。▼新スタジアム周辺の市街地の来訪人数を計測する結果は下記のようになりました。試合観戦をした人のうち、来訪した割合が31.1% → 72.8%と大きく伸長しています。スタジアムの観客数が2倍になっている上に来訪率も伸長したため、街中の人口は16,000人近くも増加しています。▼スタジアムにいた人の市街地来訪率と、当社の位置情報データから推定した人数。試合後の街の人数が16000人も違う!試合後のアウトレット来訪人数続いて旧スタジアムの南に位置する「ジ アウトレット広島」の来訪人数を見てみましょう。▼旧スタジアムと新スタジアムの間にあるアウトレットの滞在人数を計測する結果は下記のようになりました。スタジアムからのアクセスのしやすさや、市街地では近場で足りる場合もあるのでしょう、新スタジアムになって来訪率・来訪者数ともに減っています。ただ、旧スタジアム時代でも1000人ほどの来訪人数なので影響は大きくなさそうです。設立当初の報道を見ると、このアウトレットの目標来店者数は、年間800万人、つまりは1日あたりは21,918人なので、目標に対して影響値は3.6%でした。▼スタジアムにいた人のアウトレット来訪率と、ログから推定した人数。アウトレット来訪人数は減少したが、785人程度。このアウトレットは1日あたり目標来店者数を21,918人と設定しているため、目標に対する影響値は3.6%に止まる。試合前後の各施設来訪人数アウトレット以外の人数も見てみましょう。飲食店、ホテル、そして当日長距離移動したと思われる遠方にいる人の人数を確認します。これらの人数から、後で飲食費・宿泊費・交通費を計算します。試合後の飲食店来訪人数(広島市内)広島市内の飲食店への来訪人数です。広島市内で絞っているので、前述の市街地より対象範囲は広くなっています。新旧スタジアムともに、市街地への来訪人数に近い数字でした。旧スタジアムでは市街地来訪人数より大きい数字となったため、市街地の外側で飲食店に立ち寄っていたと推測できます。全体で14,000人程増えており、飲食店に落とされるお金が大幅に増えたと予想できます。▼スタジアムにいた人の飲食店来訪率と、ログから推定した人数。市街地を来訪した人とほぼ同じボリュームとなった。試合当日朝のホテル滞在人数(広島市内)(=前泊人数)試合当日の朝に広島市内のホテルにいた人数です。この人たちは前泊したと考えられます。対戦相手は札幌、浦和なので遠方です。前泊が多いのかなと思いましたが、グラフを見ると当日移動した人も多そうです(ちなみにアウェイ席は、旧スタジアムが4100席、新スタジアムが2200席あります)。県外に住む広島サポーターもいるので一概には言えませんが、新スタジアムになってアウェイサポーターも増えたのかもしれません。▼スタジアムにいた人のホテル滞在率と、ログから推定した人数。札幌、浦和と相手チームは異なるが、アウェイからもたくさんの方が新スタジアムに足を運んでくれたことがわかる試合当日夜のホテル滞在人数(広島市内)(=後泊人数)続いて試合当日の夜にホテルにいた人数、つまり後泊の人数です。両日とも、翌日が休みのためか前泊より人数が多いです。▼スタジアムにいた人のホテル滞在率と、ログから推定した人数。両日とも翌日が休みのためか、前泊より後泊の方が多い。試合前日に遠方にいた人数(=長距離移動)試合前日に広島市から遠く離れた地にいた人も見てみましょう。この人たちは長距離移動しているはずです。比べたところ、新スタジアムの方が長距離移動している割合が高いです。また、前日宿泊する人よりも、当日長距離移動する人の方が多いこともわかります。長距離移動する場合でも、旧スタジアムは遠いと言っている人が私の周りも多かったです。新スタジアムは新幹線を降りて歩いて行けることで、遠方の方々も訪れやすくなった可能性があります。また、宿泊者に比べて遠方から移動した人が多いのは、日帰りの人もそれなりにいるためと考えられます。札幌も浦和もかなりの遠方ですが、サッカーファンは2週間に1度アウェイの地に赴く人もいます。毎回宿泊費を払うと大変なので、「その距離で日帰り!?」という人も多いです。また、広島サポーターは全国にいる(広島は大学進学で県外に出る人が多い)ので、帰省してホテルに滞在せずという人もいるかもしれません。▼試合前日に遠方にいた割合と人数。サンフレッチェの試合による、試合当日の経済効果の試算最後に試合当日の経済効果の試算です。これまでわかった人数に、想定される単価をかけて経済効果を算出します。これをまとめたのが次の表です。旧スタジアム時代と比べると、3倍近く売り上げています。最も経済効果が大きいのは遠方からの交通費です。新スタジアムの影響が大きいのは鉄道会社や航空会社のようです。次に試合のチケット代でした!スタジアムで頑張っている人達にちゃんと還元されているのは良いことですね! ※チケットについて詳細はこちら!その次が飲食代で、地域経済への貢献度となります。宿泊費は全体の中では大きくありません。毎回宿泊していてはお財布が大変ということでしょう。試算したのは男子のサンフレッチェ広島ホームゲームに関わる、移動でわかる当日の経済効果のみです。そのため、女子サッカーや代表戦、他のイベントも含めたり、グッズ販売や近距離旅行、観光なども含めると経済効果はさらに増えると考えられます。(おまけ)試合のない日のスタジアム来訪人数今回の分析の対象外ですが、試合のない日のスタジアムの様子も分析してみましょう。水曜日、土曜日で来訪人数を比較してみました。▼水曜日は新旧スタジアムでほとんど人数は変わらない。土曜日は旧スタジアムの方が少し滞在人数は多い。旧スタジアムは陸上トラックもあり、サッカー以外での利用が行われるためサッカーのない日の利用者は多くなると考えられる。試合のない日は街中にある優位性は活かせていません。新スタジアムではスタジアムツアーも実施しているのですが、1日30人限定です。試合日に見てきた人数規模と比べると誤差のようなものです。海外のサッカースタジアムツアーでは、美術館や博物館よりも来訪人数が多いところもあります。工夫の余地はありそうですね。結論スタジアムは小さくなったが、街中に作ってよかったと思います。街中でサッカーをするだけで6.2億円が動く…!※年間で155億円!!しかも、場所が山奥から街中になるだけで動くお金が3.9億円増える試合後の街中の人も16,000人増える地元の飲食店に落ちるお金も12億円も増える上記の試算は主に試合当日のみのため、宿泊観光の経済効果も入れるとさらに大きくなります。また、動員数が増えることによるグッズ販売の増加や、男子のサンフレッチェ広島以外の試合での経済効果も上乗せされます。今回試算しただけでもかなりの経済効果が見えたので、つくってよかったと言えるのではないでしょうか。一方で課題もあります。特に試合のない日にこの資産をどう活用するのかが重要でしょう。現状、スタジアムツアーは1日30人・これは試験運用なのでしょうか?もっと増やせそう?・ヨーロッパのスタジアムツアーに見習えることもあるのでは(すぐ見習える部分は真似しつつ、本質的に知名度魅力度も上げていきたい)人が集まり、芝を痛めない利用方法・コンテンツを考えたいいずれにしても、スタジアムに以前の倍以上の人が来ていることは素晴らしいことです。今年(2025年)こそは、サポーター一丸となって優勝しよう!おわりに過去の関連記事紹介この分析をきっかけに、社内で経済効果を分析する流れができました。お気に入りのイベントが周囲に与える影響は汎用的に調査・改善提案しやすいので事例を増やしていきたいです。先に投稿された記事もあり、どちらも自分の好きを突き詰めた面白い分析記事です。ぜひご一読ください。